
第5章 複利投資法
「投資はシンプルだが、簡単ではない。」——バフェットの言葉としてよく引かれます。本人も何度も口にしていますが、それより前に書いた人がいます
この章は、本書の核心です。私が一生のあいだに学び、やってみて、そして間違えてきた経験を、どんな家庭でもそのまま真似できる一つの方法に凝縮しました。
一、私の投資法:一文で言える
毎月貯めたお金で、パッシブな全市場インデックスETFを積み立て、長く持ち、高値で売らない。大きく下がったり暴落したりしたら、新しい収入で買い増す。
この一文のどの言葉にも、それぞれ理由があります。
| キーワード | 理由 | 対応する複利の要素 |
|---|---|---|
| 毎月貯めたお金 | まず自分に払う。元本は貯蓄から出し、借金はしない | 元本 |
| 積立投資 | 高値も安値も当てる必要がなく、安いときには多く、高いときには少なく、自動的に買える | 倍率 |
| パッシブな全市場インデックスETF | 指数そのものは倒産せず、弱い企業が自動的に外れて強い企業が残り、コストも最も低い | 安定性、倍率 |
| 長く持ち、高値で売らない | 複利を中断させない。過去のデータでは「割高で売る」は長期的に損をしている | 時間 |
| 暴落時に新しい収入で買い増す | 他の人が恐れているときに、安くなったものを多めに買う | 倍率 |
この方法の源は、古典的なバリュー投資にあります。グレアムとバフェットは「価格とはあなたが払うもの、価値とはあなたが得るもの」と教え、安いときに多く買うよう説きました。ボーグルは、干し草の山の中から針を探すのではなく、干し草の山をまるごと買えと教えてくれました。そして私自身、こうした教えを十数年実践し、授業料も払ってきた末に、ようやく気づいたのです——ふつうの家庭にとって最良のバリュー投資とは、みんなが恐れているときに市場全体を多めに買い、あとは辛抱強く待つことです。
私もかつては「価格が高すぎるときは売るべきだ」と信じていて、売買代金、取引口座数、信用買い残(融資残高)からバブルの天井を見きわめる方法まで編み出していました。ところが、米国の100年近く、日本の60年近く、台湾の30年あまりのデータで検証してみたところ、この方法は長期的には、かえって資産を減らしていたことがわかったのです。この経緯は、本章の第6節で詳しくお話しします。
二、市場の温度を読む
若いころの私は、「トレンド」と「タイミング」の研究に多くの力を注ぎました。金利はどう動くのか、ドルは強いのか弱いのか、個人投資家が浮かれすぎていないか——それを手がかりに、高値で売って安値で買い戻そうとしていたのです。その知識は捨てていませんが、使い方を変えました。以前は明日を当てるために使っていましたが、今は、今日の市場がどれくらい冷えていて、どれくらい熱いのかを見きわめ、自分が感情に流されないようにするために使っています。
この節は3つの部分に分かれます。お金の温度(マネー)、人の温度(心理)、そして温度を読んだあとにどう動くか(タイミング)です。
1. お金の温度:金利、為替、ドル
(1) 金利は、あらゆる資産にとっての重力です。
これは、バフェットが1999年の『フォーチュン』誌の記事で使ったたとえです。預金や国債の利息が高いほど、株や不動産の魅力は薄れ、価格は下に引っぱられやすくなります。利息が低いほど、お金はリスク資産へと流れていきます。だから、利上げの局面では株式市場の調整が起こりやすく、利下げの局面では資産価格が膨らみやすいのです。
ただし、これを公式のように扱ってはいけません。利下げは、景気がすでに弱っているから行われることが多いのです。歴史を振り返ると、中央銀行が利下げを始めたあとに企業の利益が落ち込み、失業率が上がり、それからようやく株式市場が本当の底を打った、ということが何度もありました。「利下げ=好材料」は、半分しか正しくありません。
(2) 台湾株と台湾ドルは、よく連動します。
海外投資家が台湾株を買うときは、まず米ドルを台湾ドル(NT$)に替えるので、台湾ドルが上がります。売って資金を国外へ移すときには、台湾ドルが下がります。そのため、台湾株の大きな上昇には台湾ドル高が、大きな下落には台湾ドル安が伴うことがよくあります。為替を見れば、世界の資金が市場に入ってきているのか、出ていっているのかを、大まかにつかめます。
(3) ドルの強弱は、世界全体を揺り動かします。
米国が利上げをしたとき、米国経済が相対的に強いとき、あるいは世界で何かが起きて、みんながリスクを避けようとするときには、資金が米国に戻ってドルが強くなり、新興国の株式と通貨がそろって圧力を受けがちです。ドルが弱くなると、資金はまた世界各地へ戻っていきます。台湾の家庭にとって、これは次のことも意味します。海外資産を持つとき、為替そのものがリスクであり、同時に分散でもあるのです。
(4) 長期国債と株式は、必ずしも逆に動くとは限りません。
株が下がれば債券は上がる、と思っている人は少なくありません。ところが2022年、インフレが加速し、FRB(米連邦準備制度理事会)が急ピッチで利上げすると、米国の株式と長期国債はそろって大きく下落しました。債券がどんな役割を担うべきか、そして私自身が米国の長期債でどんな回り道をしたかは、本章の第7節と付録2で取り上げます。
2. 人の温度:恐怖と強欲
株式市場は短期的には予測できません。けれども、ほぼ確実に言えることが一つあります。群衆は、強欲と恐怖のあいだを振り子のように行き来するのです。
- 熱いとき:ふだん株に手を出さない身近な人が、何を買っているのかと聞いてくるようになります。ニュースは連日のように史上最高値を報じ、口座開設数と売買代金が急増し、借金をして株を買う人が増えます。年配の人がよく口にする「靴磨きの少年まで銘柄を勧めてくる」とは、まさにこういうときのことです(ジョセフ・ケネディ・シニアの逸話が元になっています。1929年の大暴落の前、靴磨きの少年にまで銘柄を勧められた彼は、持ち株を売ったと言われています)。
- 冷たいとき:株の話など誰も聞きたがらず、ニュースは「まだ下がる」という分析であふれ、売買代金は細っていきます。多くの人が損切りして市場を去り、もう二度と手を出さないと誓います。弱気相場の中で、人は否認、怒り、取引、抑うつを経て、最後にようやく受容にたどり着きます(精神科医キューブラー=ロスが示した「悲嘆の5段階」を借りた言い方です)——そして市場は、みんながいちばん落胆しているときに、ひっそりと回復し始めることが多いのです。
こうした心理の変化は、数字でおおよそ測ることができます。価格が長期平均よりどれだけ高いか、高値からどれだけ下がったか、売買代金が急増していないか、信用買い残が大きく増えていないか、恐怖指数がどれくらい高いか。これが、本書の「市場温度計」の由来です。
3. 温度を読んだあと:どう動くか
以前の私は、温度計を「売りのサイン」として使っていました。米国・日本・台湾の長期データでバックテスト(過去データ検証)をしたあと(第6節参照)、次の表のように改めました。
| 温度 | よく見られる様子 | 私のやり方 |
|---|---|---|
| 平常 | 特に熱くも冷たくもない | これまでどおりのペースで積立投資を続ける。毎日見る必要はない |
| とても熱い | 史上最高値の更新、誰もが株の話をする、売買代金と借金での株購入が急増 | 売らない。ただし借金はせず、賭け金も増やさない。株式の比率が自分で決めた水準を超えていないか確認する |
| とても冷たい | 20%以上の大幅下落、パニック、株の話を誰も聞きたがらない | 売らない。買い増すかどうかは、新しい収入があるかどうかだけで決める(第3節を参照) |
温度計は自分を律するための道具であって、市場を予測するための道具ではありません。温度計が示すのは、今どれだけ冷たいか、熱いかだけです。買い増すかどうかを決めるのは温度ではなく、新しい収入があるかどうかです。資産を本当に育ててくれるのは、やはり毎月の積立投資と、複利を中断させない忍耐です。
4. 執筆当時(2026年10月)の温度
この版を書いている今、世界の株式市場はやや熱い位置にあります。
- 米国株の価格は過去10年平均の約1.85倍で、1881年以降の歴史の中でも上位6%に入る高さです。米国企業の株式時価総額はGDPの約2.5倍で、データのある1952年以降で最も高い水準です。
- 台湾株(月平均)は過去10年平均の約2.7倍です。上場株式の時価総額は直近4四半期のGDPの約4.8倍で、これも過去最高です。
- ただ、セントルイス連銀の金融ストレス指数は約−0.5で、平常時よりも落ち着いています。米国10年国債の利回りは5%を超え、FRBの政策金利を上回っています。
以前の私のやり方なら、今ごろはもう全部売っていたはずです。実際、私は2024年に一度「売りのサイン」を見ていますが、その後、台湾株は2万ポイント台から5万ポイント近くまで上がりました。だから今の私のやり方はこうです。いつもどおり積立投資を続け、借金はせず、追加もしない。買い増しの力は、次に本当の暴落が来たときのために取っておく。
これは本を書いていた当時の私自身のやり方で、あなたへの売買の助言ではありません。その後の数字はウェブサイトの温度計のページをご覧ください。そこでは冷たさ・熱さを示すだけです。
三、安く買う
ハワード・マークス:「大事なのは、何を買うかではない。いくら払うかだ。」
1. バリュー投資
グレアムはこう言っています。「投資操作とは、徹底した分析にもとづいて、元本の安全と適正なリターンを約束するものである。」分解すると、3つのことになります。
- 徹底した分析:自分が何を買っているのかを理解すること。全市場ETFに投資する人にとって理解すべきなのは、そのETFがどんな企業を保有しているか、手数料はいくらか、どの市場に連動しているか、です。
- 元本を守る:消えてなくならないものを買い、しかも高すぎる値段では買わないこと。
- 適正なリターンを得る:時間と複利に、あなたの代わりに働いてもらうこと。
2. 価値と価格
バフェットは「価格とはあなたが払うもの、価値とはあなたが得るもの」と言っています。同じものなら、安い価格で手に入れるほど、得られるものは多くなります。
私はいつも不思議に思います。同じ人が、服や家電を買うときはセールを待つのに、株を買うときはちょうど逆になる——上がれば上がるほど大胆に買い、値引きが始まると逃げ出してしまうのです。マークスの言葉に、私が深く共感しているものがあります。大切なのは「良いものを買う」ことではなく、うまく買うことだ、というものです。
3. ミスター・マーケット
「ミスター・マーケット」は、グレアムによるたとえ話です。私は彼を、気分の浮き沈みがとても激しい隣人だと思っています。毎日ドアをノックしては値段を告げ、機嫌のいいときは法外な高値を、落ち込んでいるときは捨て値を言ってきます。彼がどんな値段を言っても、あなたは無視してかまいません。どうせ明日もまた来るのですから。
このたとえは、私に一つのことを思い出させてくれます。彼の言い値はただの選択肢であって、命令ではない、ということです。彼が安値で売りたがっているときは、少し多めに引き取ればいい。高値で売りつけてくるときは、一緒になって踊る必要はありません。心配すべきなのは彼の気分ではなく、私が彼の気分に感染してしまうことです。
4. 平均回帰
株式市場の長期的な方向は上向きです。けれども日々の価格は、大勢の人の感情に押されたり引かれたりして、よく上がりすぎ、下がりすぎます。コストラニーはこれを「老人と犬」にたとえました。犬(株価)は先へ駆けだしたかと思えば後ろに遅れたりしますが、首には綱がついていて、結局は老人(企業の本質)のまわりを歩いています。相場を見ていて不安になったら、その綱を思い出してください。
5. 安全域
安全域とは、わかりやすく言えば「自分のために残しておくクッション」です。100台湾ドルの価値があると見積もったものを70台湾ドルで買えば、その差の30台湾ドルが、間違えたときに身を守るクッションになります。安く買うほどクッションは厚くなり、見積もりを誤っても大けがをせずにすみます。ここでの「3割引き」は説明のための便宜的なたとえで、決まった公式ではありません。
市場全体で考えると、安全域が最も大きくなるのはいつでしょうか。それはみんながいちばん怖がっているときです。バフェットは1997年の株主への手紙で、こんなたとえを使っています。一生ハンバーガーを買い続ける人は、牛肉が安くなることを願うはずだ。同じように、これから何年も株を買い続ける人は、株価の下落を歓迎すべきだ、と。
6. 株式市場の暴落は、脅威ではなくチャンス
多くの人は「たくさん儲けたければ、それだけ大きなリスクを取らなければならない」と考えています。マークスの見方はちょうど逆です。高く買いすぎれば、リスクは高く、リターンは低い。安く買えば、リスクは低く、リターンはむしろ高い。この両方を決めるのは、あなたが払う価格なのです。
米国S&P 500の実際のデータで、買うタイミングがどれほど重要かを見てみましょう。
| 買った時期 | その後2年 | 5年 | 10年 | 15年 |
|---|---|---|---|---|
| 2001年1月(ITバブル崩壊の初期) | −16.9% | +0.8% | +1.5% | +4.4% |
| 2003年3月(弱気相場の底値付近) | +20.8% | +11.2% | +8.4% | +10.2% |
(年率トータルリターン、配当込み、名目ドルベース。データ:シラーのS&P 500長期データをもとに著者が計算。)
同じS&P 500を買っても、わずか2年の違いで、15年後の年率リターンには6ポイント近い差がつきました。
7. 「安く買う」には低コストも含まれる
投資家の純リターン = 市場のリターン - 手数料
ボーグルはこれを「単純な算数の冷徹なルール」と呼びました。市場の長期リターンを8%とし、最初の年に1万台湾ドルを投資して、50年間複利で運用したとします。
- 手数料なし:約46.9万台湾ドル
- 低コストのインデックスファンド(年間手数料 約0.1%):約44.8万台湾ドル
- 個別株の頻繁な売買やアクティブファンド(年間の手数料と売買コストの合計 約2.5%):約14.5万台湾ドル
同じ複利でも、リターンに働けばあなたを助け、手数料に働けばあなたに噛みつきます。期間が長くなるほど、どちらの効果も大きくなります。低コストの全市場ETFを選ぶことは、もう一つの「安く買う」なのです。
8. 積立投資、一括投資、安値待ち:どれがいい?
これは、多くの人から最もよく聞かれる質問です。答えは3段階に分かれます。
- すでにまとまったお金が手元にあるなら、分割するより一括で投資したほうが、たいていは有利です。市場は長期的に上昇するので、早く投資するほど、上昇に参加できる期間が長くなります。米国のバンガードが2012年に発表した研究(米国・英国・オーストラリアの過去データ)では、一括投資が分割投資を上回ったのは、全期間のおよそ3分の2でした。
- 毎月収入があるなら、積立投資とは「お金ができたらすぐ投資する」ことです。底値を当てるためではなく、当てなくてすむようにするための方法なのです。
- わざわざ安値を待ってから投資するのは、たいてい不利です。データサイエンティストのニック・マジューリは、「積立投資」と「下落を待ってから買う」を比較しました。たとえ毎回の底値がどこかを完全にわかっていると仮定しても、7割を超える期間で、下落を待つ戦略は単純な積立投資に負けたのです。
私も、米国の1934~2026年、日本の1968~2026年、台湾の1997~2026年のデータで、自分で検証してみました。
| やり方(毎月投資できる金額は同じ) | 米国 1934–2026 | 日本 1968–2026 | 台湾 1997–2026 |
|---|---|---|---|
| 毎月全額を投資し、一度も売らない(基準) | 資産は投資額の120倍 | 5.7倍 | 5.4倍 |
| 毎月10–20%を待機資金として残し、15–30%下落したら投入 | 基準より0.6%~5.7%少ない | 2%~6%少ない | 0.3%多い~5.6%少ない |
結論:暴落を待つために、お金を市場の外に置いておかないこと。現金をため込んで安値を待っても、成績が良くなるどころか、上昇を取り逃がすおそれさえあります。
9. 暴落時には「新しい収入」で買い増す
では、「暴落は買い増しのチャンス」を実際にはどう生かせばいいのでしょうか。カギは、買い増しに使うお金を新しく増えた収入(年末のボーナス、昇給分、旅行を一回減らした分……)から出すことです。ふだんからわざと投資せずにため込んでいるお金を使うのではありません。
これも過去のデータで試算してみました。「ふだんはいつもどおり積立投資を続け、指数が高値から20%を超えて下落している月には、投資額を倍にする」というやり方です。
| 市場 | 投資した金額1単位あたりの最終資産(積立投資だけの場合と比べて) |
|---|---|
| 米国 1934–2026 | 約20%多い |
| 台湾 1997–2026 | 約10%多い |
| 日本 1968–2026 | 11%~15%少ない |
なぜ日本ではかえって悪くなったのでしょうか。日本の株式市場は1989年にバブルが崩壊したあと、高値を取り戻すまでに34年かかったからです。その長い年月のあいだ、「暴落時に買い増した」お金は、停滞した市場の中にずっと閉じ込められていました。
ここから、2つの大切な教訓が得られます。
- 暴落時の買い増しは、その市場が長い目で見て回復することが前提です。一つの国の市場は、数十年も低迷することがあります(日本がその例です)。だからこそ世界全体に分散するのが望ましいのです——私が家族基金の投資先として、世界中の株式に投資するインデックスETFを選んだのも、そのためです。
- 買い増しは無理のない範囲で。使うのは生活に影響の出ない余裕資金です。借金をして買い増すことは、絶対にやめてください。
四、良い投資先:パッシブな全市場インデックスETFだけを買う
ジョン・ボーグル:「干し草の山の中から針を探すな。ただ干し草の山を買えばいい!」
1. 良し悪しは「トータルリターン」で判断する
投資先の良し悪しは、一つのことだけを見れば判断できます。長期にわたって安定的に、良い年率リターンをもたらしてくれるかどうかです。
年率リターン =(1+トータルリターン)^(1 ÷ 年数)- 1
期間の異なるリターンを「平均して毎年どれくらいか」に換算して、はじめて公平に比べられます。注意したいのはトータルリターン——株価の値動きに、配当の再投資を加えたもの——であって、配当がいくら出るかだけを見てはいけません。
2. なぜ個別株を選ばないのか
- 株の大多数は、長期的には株主に損をさせています。1926~2019年に米国で上場していた26,168社のうち、57.8%は株主の富を減らしました。株式市場全体の富は、ごく一握りの企業によって生み出されたものです。(ベッセンバインダー、2021)
- 企業にも、人と同じように生老病死があります。米国の時価総額上位の企業を見ると、20年前と今とでは顔ぶれがほぼ入れ替わっています。かつての馬車、タイプライター、写真フィルムといった産業は消えてしまいました。投資調査会社のDimensionalが1927年以降の米国株を集計したところ、どの時点で買った個別株でも、20年以内に約18%が業績不振で上場廃止となり(買収による上場廃止は含みません)、生き残ったうえで市場平均に勝てたのは約5分の1にすぎませんでした。
- 良い会社が、良い株だとは限りません。誰もが知っている良い会社は、たいてい株価がすでにかなり高くなっています。期待される高成長のために高すぎる価格を払ってしまうこと、それがシーゲル教授の言う「成長率の罠」です。
- 専門家でも勝てません。アクティブファンドの9割以上は、長期的に市場全体の指数に負けています。
3. なぜ「全市場」なのか
インデックスETFにはいろいろな種類がありますが、私が買うのは、市場全体に連動する全市場(時価総額加重型)の指数だけです。
- 指数そのものは消えてなくならない:指数は定期的に衰えた企業を外し、新たに台頭した企業を組み入れます。いわば自動的に「弱きを去り、強きを残す」仕組みで、複利に欠かせない「条件が変わらない安定性」を満たしてくれます。ETFの資産は保管機関が別に管理しています。ただし、規模が小さすぎるETFが清算・上場廃止になった例はあります(純資産価値で払い戻されます)。だから、規模の十分に大きいものを選びます。
- 経済全体の成長を分かち合える:人口の増加、技術革新、穏やかなインフレ、市場での競争によって、一国の企業全体の利益は長期的に伸びていきます。
- コストが最も低い:頻繁に売買する必要がなく、経費率はふつう0.0数%から0.数%程度です。
なぜ業種別・テーマ型・高配当ETFを買わないのか?
- 業種別(たとえば半導体やテクノロジー):本質的には一つの業種に賭けることなので、集中度が高く値動きも大きく、成長率の罠にも陥りやすくなります。今日のスター産業が、20年後もそうだとは限りません。
- 高配当型:高配当は高リターンを意味しません。台湾で最も代表的な2本を例にとると、2026年10月13日までの10年間のリターン(分配金込み・市場価格ベース)は、台湾50指数に連動するETFが約756%、高配当ETFが約399%でした(MoneyDJ理財網。期間が違えば結果は大きく変わります)。高配当型はルールにもとづいて銘柄を選ぶ「戦略型」の指数で、「市場全体を買う」という本来の考え方から外れていますし、手数料や回転率もたいてい高めです。さらに分配金には、税金と健康保険の補充保険料もかかります(台湾の制度の例です)。
私自身も以前は業種別ETFや個別株を買っていました。その経験は、付録1「なぜ私は、最後に全市場インデックスだけを買うことにしたのか」に書いています。
4. 世界全体に分散するのが望ましい
一つの国の市場は、数十年も低迷することがあります。日本の株式市場は1989年にバブルが崩壊したあと、高値を取り戻すまでに34年かかりました。次の30年にどの国がいちばん好成績を上げるかは、誰にも保証できません。
そこで私が家族基金のために選んだのは、世界全体の株式市場に連動するインデックスETFです——世界中の数千社を一度に買え、一つの国の盛衰に左右されません。
| 種類 | 説明 | 向いている役割 |
|---|---|---|
| 全世界株式指数 | 世界の先進国と新興国の企業を一度に保有できる | 中核。一つの国のリスクを最もよく分散できる |
| 米国の全市場指数(例:S&P 500) | 世界最大で、最も革新力のある市場 | 中核または補助 |
| 台湾の全市場指数 | なじみがあり為替リスクもないが、少数の大型テック株に大きく偏っている | 補助 |
5. ETFを選ぶときの5つのチェックポイント
- 経費率:低ければ低いほど有利です。長期で1ポイント違えば、30年後には大きな差になります。
- トラッキングエラー:連動対象の指数とのずれは、小さいほど優秀です。
- 規模と流動性:純資産総額が十分に大きく出来高も多ければ、売買スプレッドが小さく、上場廃止にもなりにくくなります。
- プレミアム:市場価格が基準価額(NAV)を明らかに上回っているときには買わないようにしましょう——プレミアムは、あなたのリターンをそのまま食いつぶしてしまいます。
- 税と分配金:米国上場のETFでは、配当から30%の税が源泉徴収されます(台湾の制度の例です)。台湾上場で海外に投資するETFなら、分配金と手数料を確認する必要があります。選ぶ前に、税引き後・手数料控除後のトータルリターンをきちんと計算しましょう。(2026年10月時点で私が確認できた資料では、米国議会の「米台二重課税救済迅速化法案」はまだ成立しておらず、米国が台湾の投資家に課す配当の源泉徴収税率は30%のままです。法案が発効すれば10%~15%に下がる見込みですが、進捗は台湾財政部の公告で確認してください。また、世帯全体の海外所得が年間合計100万台湾ドルに達すると、最低税負制の基本所得額に算入しなければなりません。)
本書は選び方の原則を説明するだけで、特定の運用会社の商品をおすすめするものではありません。実際にどの銘柄を買うかは、ご自身の状況に合わせて比較したうえで決めてください。
6. 金(ゴールド)とその他の資産
バフェットは、金(ゴールド)は生産性のない資産だと言います。今日1オンスの金を持っていれば、100年後もやはり1オンスのままです。それに対して企業は、利益を生み続け、配当を払い続けます。彼は2011年の株主への手紙で、こんな比較をしています。世界中の金の価値があれば、全米の農地と、世界で最も儲かっている石油会社十数社を買っても、まだお釣りがくる——そして100年後、農地と企業は計り知れない価値を生み出しているのに、金は何も生み出していない、と。(彼の計算では、世界の金は約17万トンで、その価値は約9.6兆ドル。これで全米の農地4億エーカーを買い、さらにエクソンモービル16社分を買っても、約1兆ドルが残ります。)
株式の長期リターンは、債券、現金、金をはるかに上回ります。シーゲル教授が1802年以降の米国のデータを集計したところ、インフレ調整後の株式の長期年率リターンは約6.5%から7%で、これは「シーゲル定数」と呼ばれています。私もシラー教授が公開している米国のデータ(1871年から2026年)で計算してみました。インフレ調整後で、株式(配当込み)は年約7.8%、10年国債は約2.6%。そして現金は、何もせずに置いておくと、購買力が毎年約2.3%ずつ失われていきます。
五、長期保有:時間は億万長者製造機
バフェット:「人生は雪だるまのようなものだ。大切なのは、湿った雪と、とても長い坂を見つけることだ。」
お金はまた稼げますが、時間は使ってしまえばそれまでです。そして、よりによって複利が何よりも必要とするのが、その時間なのです。
1. 複利には長い時間の粘り強さが必要
多くの人は、いちばんリターンの高い方法を探すことに夢中です。『サイコロジー・オブ・マネー』の著者ハウセルの指摘は的を射ています。一度に大きく儲けることを追い求めるより、そこそこ良くて、しかも自分が続けられる方法を見つけ、それを何十年も続けるほうがいい、と。複利に必要なのは瞬発力ではなく、持久力です。
バフェットによれば、彼の雪だるまが大きいのは、とても早いうちに長い坂のてっぺんから転がし始めたからです。そんな長い坂を手に入れるコツについて、彼は「とても若いうちに始めるか、とても年をとるまで生きるかのどちらかだ」と言っています。また、よくマンガーの言葉とされる一言があります(私は一次資料での出典を確認できませんでした)。その意味するところに、私は深く共感しています。複利の第一の原則は、必要がないかぎり、決してそれを中断しないことだ、というものです。
『サイコロジー・オブ・マネー』の著者モーガン・ハウセルの計算によると、彼が本を書いた時点で、バフェットの資産845億ドルのうち842億ドルは、50歳を過ぎてから築かれたものでした。ハウセルの言葉を借りれば、「彼のスキルは投資だが、彼の秘訣は時間だ」。
2. 富の大部分は、後半に生まれる
世間で広く出回っている古典的な計算例があります。毎年の年末に14,000台湾ドルを投資し、年率リターンが20%だとします。5年目の累計は約10万台湾ドル、20年目は約261万台湾ドル、30年目は約1,655万台湾ドル、40年目には1億台湾ドルを超えます——最後の5年間だけで、6,000万台湾ドル以上も増えるのです。(これは複利の形を説明するための例です。全市場インデックスの長期リターンは20%よりはるかに低いので、実際の積み上がり方はずっとゆっくりになります。)
この例では、リターンは最初から最後まで変わっていません。変わったのは雪だるまの大きさだけです。最初の20年は足踏みしているように見え、多くの人がこの時期にあきらめてしまいます。そこを乗り越えた先にこそ、本当に資産が太っていく時期が待っているのです。
複利にまつわる話はたくさんあります。1626年、アメリカ先住民は約24ドル相当の品物と引き換えにマンハッタン島を売ったと言われています。もしこの24ドルが年6%の複利で今日まで増えていたら、およそ3,000億ドルになっていた計算です。
3. 長く持つほど、儲かる確率は高くなる
私はやがて、投資をサイコロ振りのように考えるようになりました。一回振るだけでは、勝つか負けるかはわかりません。でも振る回数が十分に多ければ、結果は有利な側に寄っていきます。勝率を決めるのは、あなたがどれだけ賢いかではなく、どれだけ長く持ち続けるかです。米国S&P 500の1928年以降のデータ(配当込み)を使って、任意の時点で買い、さまざまな年数持ち続けた場合に、リターンがプラスになった割合を計算しました。
| 保有期間 | 名目でプラスになった割合 | インフレ調整後にプラスになった割合 |
|---|---|---|
| 1年 | 75% | 70% |
| 5年 | 89% | 78% |
| 10年 | 95% | 87% |
| 15年 | 100% | 95% |
| 20年以上 | 100% | 100% |
(データ:シラーのS&P 500長期データ、1928年1月~2026年9月、著者計算。)
4. 商品のリターンは、投資家のリターンと同じではない
米国のファンド「CGM Focus」は、2009年末までの10年間で年平均約18%のリターンを上げ、その10年間の成績トップでした。ところがモーニングスター(Morningstar)の計算によると、このファンドの投資家は、平均でかえって毎年約11%の損失を出していたのです。ファンドは儲かっているのに、ファンドを買った人は損をしている。その差を生んだのは売買のタイミングでした。大きく上がってから飛び込み、深く下がってから逃げ出していたのです。
だから私は商品を選ぶとき、「過去にいちばん上がったのはどれか」ではなく、「自分は持ち続けられるか」を問います。全市場インデックスETFには、驚くようなことは何もありません。でも、平凡だからこそ、安心して一生持ち続けやすいのです。
5. 「近視眼的損失回避」を克服する
1,000台湾ドル損したときの悲しさは、1,000台湾ドル儲けたときの嬉しさよりもずっと大きい。それが人間というものです。株価は毎日上がったり下がったりします。頻繁に見るほど「損している」場面を目にする回数が増え、心が落ち着かなくなり、つい売りたくなってしまいます。行動経済学者のセイラーらは1997年に実験を行い、投資の結果を頻繁に見る人ほど株に投じる金額が少なくなり、最終的な儲けも少なくなることを示しました。バフェットは下落が怖くないわけではありません。彼の目は10年後、20年後の複利を見ているので、目の前の値動きが自然と小さく見えるのです。
簡単な方法を一つお伝えします。毎日株価を見ないことです。積立投資を設定したら、年に1、2回チェックすれば十分です。
六、私が高値で売るのをやめた理由
この節では、私自身がたどってきた道のりを、正直にお話しします。
1. かつては「価格が高すぎたら売るべきだ」と信じていた
長年、私の投資ルールの中には「バブルのときは売る」という一条がありました。台湾株の2000年と2008年のバブルを丹念に研究し、天井を見きわめるための指標をまとめていたのです。
- 価格:台湾加権指数(TAIEX)が10年移動平均の150%以上になる(私はこれを「10年線乖離率」と呼んでいました)
- 売買代金:月間の売買代金が平常の4倍以上になり、「天井の大商い」が出る
- 人気:その月に取引のあった口座数が過去最高になる
- レバレッジ:米国の信用買い残が過去最高になる
これらの指標がそろって天井をつけ、下がり始めたときこそ、バブルが終わり、全部売るべきときだと私は信じていました。そして売買代金が「谷底の薄商い」にまで細り、人気がピークの4割ほどに落ちたところで、すべて買い戻すのです。
この方法は、2000年と2008年については、後から振り返るとどちらもよく当たっていました。けれども、2024年に起きたことで、私は見直しを迫られました。
2. 一度の判断ミス
2024年7月、台湾株は24,416ポイントに達し、10年線乖離率は193%と、2000年や2022年よりも高くなりました。指数・売買代金・取引口座数の3つがそろって過去最高をつけたあと、下がり始めたのです。私のルールでは、これは全部売るサインでした。その後、台湾株は2025年4月に一時17,000ポイント台まで下げたものの、そこから上がり続け、2026年10月には50,000ポイント近くに達しました。私が「売りのサイン」を出したときの2倍です。
3. もっと多くの国、もっと長い期間で検証した
台湾の例だけでは少なすぎます。そこで米国の1934~2026年、日本の1968~2026年のデータを加え、台湾の1997~2026年と合わせて、「株価が10年平均を大きく上回ったら売る」というルールを検証しました(毎月同じ金額を投資する前提)。
| やり方 | 米国(持ち続けた場合との比較) | 日本 | 台湾 |
|---|---|---|---|
| 10年平均の150%を超えたら全部売り、平均まで下がったら買い戻す | 97%少ない | 78%少ない | 64%少ない |
| 基準を200%に緩める | 66%少ない | 47%少ない | 31%少ない |
| 全部は売らず、株式を7~8割まで減らすだけ | 14%~47%少ない | 19%~32%少ない | 15%~28%少ない |
| 175%を超えたら警戒し、10か月移動平均を割り込んだら売り、上回ったら買い戻す | 11%多い | 10%多い | 4%多い |
(米国は配当込み・インフレ調整後で、現金には米国短期国債(Tビル)の利息がつくものとして計算。日本はOECDの株価指数、台湾は台湾中央銀行の加権指数を使っており、どちらも配当を含まない価格指数です——台湾は配当利回りが高いので、配当を含めれば、持ち続けることの優位はさらに大きくなります。)
結果ははっきりしています。
- 「割高なら売り、安くなったら買い戻す」は、長期的に資産を大きく減らします。株式市場は「割高」な水準に何年もとどまることがあり、売ってしまった人は十数年、ときには20年も待たされて、大きな上昇を取り逃がしてしまうからです。
- 3つの市場の結論はどれも同じで、1989年の日本の史上最大のバブルを含めても変わりません——ルールはバブルの何十年も前に売ってしまうため、1970年代・80年代の日本の大相場を取り逃がしてしまうのです。
- サインに多少なりとも意味があるのは、極端なときだけです。米国で株価が10年平均の2倍を超えたとき、その後5年間の実質リターンの中央値は−3%でした。けれども、そんな場面はめったになく、たとえ巡ってきても、それを頼りに持ち続けた場合より多く稼ぐのは難しいのです。
- 少し複雑な「警戒+移動平均割れ」のやり方はわずかに上回るものの、差は小さく、結果も毎回違います。ふつうの家庭が何年もそのとおりに続けるのは難しいでしょう。
4. バフェットにさえできない
バフェットは2003年度の株主への手紙で、ITバブルのときにいくつかの大型保有株を売らなかったのは大きな間違いだったと認めています。ただし注意したいのは、彼が問題にしているのは、個別株の価格がその本質的価値をはるかに上回っていたことだ、という点です。彼はふつうの人に市場全体の天井を当てるよう勧めたことは一度もなく、むしろ低コストのインデックスファンドを買うよう、繰り返し勧めてきました。
ジェレミー・グランサムは2022年、米国株のバブルはさらにはじけると予想しましたが、米国株はその後、史上最高値を更新しました。こうした超一流の投資家でさえ天井を正確に見きわめるのが難しいのですから、ふつうの人は、なおさらそれに頼るべきではありません。
5. 今の私のやり方
- 「割高だから」という理由では売りません。株式市場は長期的に上昇し、高値の先にはさらに高い高値があります。
- 市場が過熱しているとき、私がするのは3つだけです:借金をせず、賭け金も増やさない。株式の比率が最初に決めた水準を超えていないか確認する。いつものペースで積立投資を続け、追加はしない。
- 市場がパニックに陥り、暴落したときは、新しい収入で買い増します。
- いつ売るのか?二つの場合だけです。一つは、生活のために本当にお金が必要なとき(たとえば退職後の取り崩し)。もう一つは、資産の比率を調整する必要があるとき(リバランス)です。
この経緯を書き残したのは、家族に知ってほしかったからです。方法は修正してかまわないこと、そして考え方は事実による検証に耐えるものでなければならないことを。一生投資を続けるうえで最も大切なのは、自分が正しいと証明することではなく、間違っていたときに改める気持ちを持つことです。
七、お金を失わない
「ルールその1:決してお金を失わないこと。ルールその2:ルールその1を決して忘れないこと。」——バフェットの言葉としてよく引用される
「お金を失わない」とは、株価が決して下がらないという意味ではありません。元本を永久に失うような間違いをしない、という意味です。株価が一時的に下がっても、あなたが買ったのが市場全体(指数そのものは消えてなくならない)で、しかも売らざるを得ない状況に追い込まれなければ、それは帳簿の上だけの変動にすぎません。本当の損失は、消えてしまうものを買うこと、借金で投資して強制決済されること、あるいはパニックの中で最安値で売ってしまうことから生まれます。
1. 間違いは避けられないが、致命的な間違いは避ける
- 卵を一つのかごに盛らない:一つの銘柄に何かあれば、すべてを失いかねません。
- 人の流れについていかない:誰もが争って買うスター銘柄やスター産業は、価格にすでに期待がぎっしり詰まっています。
- 高すぎる値段を払わない:高く買ってしまえば、どんなに良いものでも儲けは出ません。
ひとことで言えば、低コストの全市場インデックスETFで長期投資をするということです。
2. 能力の輪:わからないものは買わない
バフェットの言いたいことはシンプルです。わからないものは買わない。彼は1996年の株主への手紙で、能力の輪についてこう書いています。「その輪の大きさはさほど重要ではない。しかし、その境界を知ることは決定的に重要だ。」ほとんどの家庭にとって最良の能力の輪とは、こういうものでしょう。私は一社一社のことはわからない。でも「市場全体は長期的に成長する」ということはわかっている。
読書は、能力の輪を広げるいちばんの方法です。バフェットは大の読書家として知られています。マンガーは、毎晩寝る前には、朝起きたときより少しだけ賢明になっていなさい、と言いました。
3. EQ(心の知能):忍耐、根気、継続と規律
私は「静水流深」——静かな水ほど深く流れる——という四字熟語がとても好きです。投資で競うのは頭の回転の速さではなく、心がどれだけ静かでいられるかです。
- 忍耐:みんなが売っているときに、まだ買い続け、持ち続ける。これは本能に反するので、居心地が悪くて当然です。でも投資とはそういうものです。まずこの居心地の悪さがあって、そのあとにお金がついてくるのです。
- 根気:暴落のあと、高値を取り戻すまでにどれくらい待つ必要があるでしょうか。早ければ1、2年、遅ければ10年以上です。根気とは、この終わりの見えない日々のあいだも、変わらず毎月投資を続けることです。
- 継続と規律:投資は「シンプルだが簡単ではない」。方法は一文で言えてしまいますが、難しいのは何十年も崩さずに続けることです。
『慢慢変富』(ゆっくり豊かに)を読んだとき、忍耐について書かれた一節に深く共感しました。私なりの言葉で言えば、忍耐とは何もしないことではありません。自分をいちばん疑い、いちばんあきらめたくなったその瞬間に、それでも元の正しい道に戻ろうとすることです——そしてそれこそ、市場で多くの人ができないことなのです。
4. 急がず、耐える:詐欺を防ぎ、借金・ギャンブル・レバレッジは厳禁
借金をして投資しない、レバレッジを使わない。それは、自分のために退路を残しておくことです。いつも順風満帆とはいきませんし、株式市場について唯一予測できるのは、予測できないということだけです。
バフェットは2017年度の株主への手紙(2018年2月公表)でこう述べています。短期的に株式市場がどこまで下がるかは、誰にも予測できない。たとえ借りたお金がわずかで、ポジションがすぐには脅かされなくても、恐ろしいニュースの見出しや息が詰まるような論評に頭をかき乱されるかもしれない。そして心が乱れているときには、良い判断を下すのは難しい、と。
借金をして投資するのは、3つのものを同時に賭けのテーブルに載せるのと同じです(この3点の整理は、バフェットの2017年度の手紙を読み解いたある記事によるもので、私も同感です)。
- 判断力を失う:借金をしたくなるのは、たいてい相場が上がってうずうずしているときか、儲かって自信が膨らみすぎているときです。それはまさに、頭がいちばん冷静でないときです。
- 余裕を失う:借金をしていない人にとって、下落はバーゲンです。借金をしている人にとって、下落は追証の請求です。震え上がるうえに、最安値で売らされることもあります。
- チャンスを失う:本当の暴落が来たときには、ポケットはもう空っぽです。
コストラニーは、借金をして株を買ってはいけないと繰り返し説きました。たとえ自分の見方が正しくても、それが証明される瞬間まで持ちこたえられないかもしれないからです。投資の世界には古い格言があります(ハワード・マークスもよく引用しています)。「年老いた投資家もいれば、大胆な投資家もいる。だが、年老いていて、しかも大胆な投資家はいない。」
詐欺にも用心してください:利益を保証する話、高いリターンをうたう話、グループへの参加を誘って「先生」の言うとおりに株を買わせる話は、すべて詐欺です。(詳しくは付録3を参照)
5. リスク分散と資産配分
分散には3つのレベルがあります。
- さまざまな企業に分散する:一つの銘柄ではなく、市場全体を買う
- さまざまな国に分散する:一つの国ではなく、世界全体の株式市場に投資する
- さまざまな時点に分散する:積立投資で、一生買い続ける
ノーベル財団は、資産配分のよい例です。ノーベルが1896年に亡くなったとき、遺産は約3,100万スウェーデン・クローナでした。財団は当初、預金と国債にしか投資できず、インフレと税負担で資産が大きく目減りした末、1953年になってようやく株式と不動産への投資を認められました。その後は長期的な配分比率に従って投資し、定期的に調整しながら、今日まで100年以上にわたって賞金を授与し続けています。2025年末時点で、財団の投資資本は約67億スウェーデン・クローナです。
6. お金はどこに置く?——現金、預金、債券
「高値で売らない」方法をとると、お金の大部分は長いあいだ株式に置いておくことになります。それでも、どの家庭にも、株式市場に置かないお金が一部は必要です。
| 用途 | 私のやり方:置き場所 | 理由 |
|---|---|---|
| 緊急予備資金(生活費6か月分) | 台湾ドルの普通預金、定期預金 | いつでも使え、株式市場の影響を受けない |
| 3~5年以内に必ず使うお金(住宅購入の頭金、学費) | 台湾ドルの定期預金、短期債券 | その期間にちょうど株式市場が暴落するかもしれず、リスクは取れない |
| 退職後の取り崩し用のクッション(生活費1~2年分) | 定期預金、短期債券 | 暴落時にはまずこのお金で暮らせば、株を安値で売らずにすむ |
| 資産配分の安定装置(たとえば1割) | 短期で質の高い債券 | 全体の値動きを抑え、暴落時にはリバランスに使える |
債券について、特に注意してほしいことが二つあります。
- 長期債券は「元本が守られる」ものではありません。金利が上がると、長期債券の価格は大きく下がります。2020~2023年に米国の金利は上がり続け(FRBは2022~2023年に連続して利上げしました)、残存期間20年以上の米国債に連動するETF(TLT)の価格は、2020年8月の高値から2023年10月までに約52%下落しました。長期債券の価格はあまりにも多くの要因に左右されるので、ふつうの家庭が金利を当てて値幅を稼ぐのには向いていません。私自身、ここで回り道をしました。買うのが早すぎたのです。幸い、利息を含めてほぼトントンのところで売ることができ、損失は1万台湾ドルあまりで済みました(付録2「私の回り道」を参照)。
- 外国債券には為替リスクがあります。収入も支出も台湾ドルの家庭にとっては、米ドル建て債券の利息がよくても、台湾ドル高になれば損をすることがあります。緊急時に使うお金や近いうちに使うお金は、台湾ドルで持っておくのが望ましいでしょう。
バフェットが遺産信託のために書いた指示は、90%を低コストのS&P 500インデックスファンドに、10%を短期国債に、というものです(バークシャー2013年度の株主への手紙)。私の家族基金も同じような考え方をとっています。大部分を世界全体の株式指数に投資し、ごく一部を世界の債券に置き、数年ごとに比率を確認しています。
7. 孤独を楽しみ、メディアやニュースに流されない
テレビやインターネット、金融機関の営業担当者が熱心に勧めてくるのは、たいてい彼らが売りたいものです。彼らの収入は、あなたが売買することから生まれるのであって、あなたが儲けることから生まれるのではありません。何かを勧められたら、まず「この人はなぜ私にこれを教えるのだろう?」と自問してください。この点がはっきりわかれば、みんなと違う道を一人で歩くことも怖くなくなります。
本章のポイント
- 私の方法:パッシブな全市場インデックスETFを積み立てで買い、長く持ち、高値では売りません。暴落時には新しい収入で買い増します。
- 「安く買う」の精神は、市場全体で言えば、みんなが怖がっているときに多く買うことです。低コストもまた「安く買う」ことです。
- 暴落を待って現金をため込まないこと。買い増しの資金は新しい収入から出し、できれば世界全体に分散しましょう。
- 買うのは全市場(時価総額加重型)の指数だけで、個別株、業種別、高配当型は買いません。ETFを選ぶときは、手数料、トラッキングエラー、規模、プレミアム、税を見ます。
- 長く持つほど、儲かる確率は高くなります。1928年以降の米国株では、20年以上持ち続けた場合、インフレ調整後で一度も損失になっていません。ただしこれは米国の記録です。日本では、1989年の高値で買った人は20年持ち続けても大きな損失を抱えていました。過去の実績は将来を保証するものではありません。
- 「割高で売る」は、米国・日本・台湾のいずれでも、長期的に資産を大きく減らしました。私はこのルールをやめました。
- お金を失わないために:一か八かの勝負をせず、借金をせず、レバレッジをかけず、分散すること。近いうちに使うお金は、台湾ドルの預金か短期債券に置きましょう。
出典(参照日:2026-10-13)
- ロバート・シラー(Robert J. Shiller)のS&P 500長期データ:shillerdata.com、2026-10-06版、2026-10-12ダウンロード。
- 米連邦準備制度の経済データベース(FRED):3か月物米国短期国債利回り TB3MS、消費者物価指数 CPIAUCSL、OECD日本株価指数 SPASTT01JPM661N(CC BY 4.0)、2026-10-12ダウンロード。
- バックテストのプログラムと結果:
engine/backtest.py、docs/回測初稿_美日_2026-10-12.txt。 - 米国・日本・台湾の3市場のバックテスト結果:
docs/回測_美日台_2026-10-12.txt。 - 米連邦準備制度の経済データベースFRED(fred.stlouisfed.org):非金融企業の株式時価総額 NCBEILQ027S(FRB Z.1統計)、米国名目GDP(BEA)、セントルイス連銀金融ストレス指数 STLFSI4、10年国債利回り DGS10、フェデラルファンド実効金利 DFF(第2節「執筆当時(2026年10月)の温度」)。
- 台湾の中央銀行「金融統計月報」証券市場(EG27M01:加権指数の月平均、上場時価総額);行政院主計総処の国内総生産(四半期)。以上は「政府資料開放授権条款-第1版」〔台湾政府オープンデータライセンス第1版〕に基づいて使用。
- 台湾証券取引所の加権株価指数の過去データ(twse.com.tw):第6節の台湾株の高値・安値。
- 日経平均株価:2024-02-22の終値39,098.68円が、1989-12-29の38,915.87円を上回った(日本経済新聞社、indexes.nikkei.co.jp)。
- バフェット「バークシャー・ハサウェイ株主への手紙」1996年度(berkshirehathaway.com):能力の輪について「その輪の大きさはさほど重要ではない。しかし、その境界を知ることは決定的に重要だ」;ほとんどの投資家にとって最良の方法は、手数料がきわめて低いインデックスファンドを買うこと。
- バフェット「バークシャー・ハサウェイ株主への手紙」2003年度(berkshirehathaway.com):ITバブルのときにいくつかの大型保有株を売らなかったのは、大きな間違いだった。
- バフェット「バークシャー・ハサウェイ株主への手紙」1997年度(berkshirehathaway.com):ハンバーガーのたとえ——長期にわたって買い続ける人は、価格の下落を歓迎すべきだ。
- バフェット「バークシャー・ハサウェイ株主への手紙」2008年度(berkshirehathaway.com):「価格とはあなたが払うもの、価値とはあなたが得るもの」。バフェットは、これはグレアムから教わったと述べている。
- バフェット「バークシャー・ハサウェイ株主への手紙」2011年度(berkshirehathaway.com):金と、全米の農地・エクソンモービルとの比較。
- バフェット「バークシャー・ハサウェイ株主への手紙」2013年度(berkshirehathaway.com):遺産信託について、90%を低コストのS&P 500インデックスファンドに、10%を短期国債に、という指示。
- バフェット「バークシャー・ハサウェイ株主への手紙」2017年度(2018年2月公表、berkshirehathaway.com):借金をしての投資への警告。
- John C. Bogle, The Little Book of Common Sense Investing(Wiley、2007年;10周年記念版 2017年):「干し草の山の中から針を探すな。ただ干し草の山を買えばいい!」。
- John C. Bogle (2005), "The Relentless Rules of Humble Arithmetic," Financial Analysts Journal。
- ハワード・マークス『投資最重要的事』〔邦訳『投資で一番大切な20の教え』〕(商業周刊、2017年);原著 The Most Important Thing(Columbia University Press、2011年):成功は「良いものを買う」ことではなく「うまく買う」ことにある;価格とリスク・リターンの関係。
- ハワード・マークス「On Bubble Watch」(Oaktree顧客向けメモ、2025年1月、oaktreecapital.com):「大事なのは、何を買うかではない。いくら払うかだ。良い投資は、良いものを買うことからではなく、うまく買うことから生まれる」。
- ベンジャミン・グレアム『智慧型股票投資人』(寰宇出版)〔邦訳『賢明なる投資家』〕;英語改訂版 The Intelligent Investor, Revised Edition, commentary by Jason Zweig(HarperBusiness、2003年):第1章の「投資」の定義、第8章〈投資家と市場の変動〉の「ミスター・マーケット」。
- アンドレ・コストラニー『一個投機者的告白』〔「ある投機家の告白」〕(商業周刊;ドイツ語原書 Die Kunst über Geld nachzudenken、Econ、2000年):「老人と犬」のたとえ。
- Anatoly Shtekhman, Christos Tasopoulos & Brian Wimmer (2012), "Dollar-Cost Averaging Just Means Taking Risk Later," Vanguard Research(バンガード、2012年7月):米国・英国・オーストラリアの過去データで、一括投資が分割投資を上回ったのは全期間の約3分の2。
- ニック・マジューリ『持続買進:資料科学家的投資終極解答,存銭及致富的実証方法』〔邦訳『JUST KEEP BUYING』ダイヤモンド社、2023年〕(商業周刊、2023年);原書 Just Keep Buying(Harriman House、2022年):「下落を待ってから買う」と積立投資の比較。
- Bessembinder (2021), "Wealth Creation in the U.S. Public Stock Markets 1926 to 2019," Journal of Investing(2021年4月号;SSRNワーキングペーパー 2020年):26,168社のうち57.8%は、1か月物米国短期国債に及ばない富しか生み出さなかった。
- Dimensional Fund Advisors, "Singled Out: Historical Performance of Individual Stocks"(dimensional.com;データ期間 1927-01~2020-12):20年後も上場していた株は47.6%だけで、平均約18%は業績不振で上場廃止;生き残り、かつ市場平均に勝ったのは5分の1をやや上回る程度。
- Jeremy J. Siegel, The Future for Investors(Crown Business、2005年):「成長率の罠」。
- S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス『SPIVA U.S. Scorecard』2025年末版(spglobal.com)。
- MoneyDJ理財網「ETF報酬分析」ページ:元大台湾50(0050)https://www.moneydj.com/ETF/X/Basic/Basic0008.xdjhtm?etfid=0050.TW 、元大高股息(0056)https://www.moneydj.com/ETF/X/Basic/Basic0008.xdjhtm?etfid=0056.TW (2026-10-13参照。ページには、成績はすべて分配金を考慮済みと明記。10年間の市場価格リターンは756.05%、398.77%)。ここでは「高配当は高リターンを意味しない」ことを示す例として使っているだけで、推奨ではありません。
- 米国内国歳入庁(IRS)Publication 515(irs.gov):非居住外国人が受け取る米国源泉の配当に対する法定源泉徴収税率は30%(租税条約の適用がある場合を除く);米国の所得税租税条約一覧(irs.gov、"United States Income Tax Treaties – A to Z")。
- 台湾「所得基本税額条例」第12条(全国法規資料庫、law.moj.gov.tw):1申告世帯の年間海外所得が合計100万台湾ドルに達すると、基本所得額に算入しなければならない。
- 台湾衛生福利部中央健康保険署、二代健保(第二世代全民健康保険)の補充保険料(配当所得)に関する規定(nhi.gov.tw)。
- シーゲル『散戸投資正典』〔「個人投資家の投資の正典」〕(Stocks for the Long Run、McGraw-Hill;第5版 2014年、第6版 2022年):1802年以降の米国株式のインフレ調整後の長期リターン。
- アリス・シュローダー(Alice Schroeder)『雪球:巴菲特伝』〔邦訳『スノーボール』〕(The Snowball: Warren Buffett and the Business of Life、Bantam、2008年):「人生は雪だるまのようなもの」。
- 1999年のバークシャー株主総会でのバフェットの質疑応答:雪だるまには「とても長い坂」が必要で、そのコツは「とても若いうちに始めるか、とても年をとるまで生きるかのどちらか」だ(CNBC 2021-07-23の報道、cnbc.com)。
- モーガン・ハウセル『致富心態:関於財富、貪婪与幸福的20堂理財課』〔邦訳『サイコロジー・オブ・マネー』〕(天下雑誌、2021年);原書 Morgan Housel, The Psychology of Money(Harriman House、2020年)第4章〈Confounding Compounding〉:「自分が続けられる、そこそこ良いリターン」を目指す;バフェットの資産845億ドルのうち842億ドルは50歳以降に築かれた;"His skill is investing, but his secret is time."(引用は英語原文からの訳)。
- マンハッタンの取引:1626-11-05付、Pieter Schaghen がオランダ連邦議会に宛てた書簡(オランダ国立公文書館 Nationaal Archief 所蔵)。60ギルダー相当の品物でマンハッタンを買い取ったと記されている;「24ドル」は後世の換算で、複利の結果は著者の計算。
- 〈Best Stock Fund of the Decade: CGM Focus〉、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(The Wall Street Journal)2009-12-31、Eleanor Laise記者:モーニングスター(Morningstar)の金額加重収益率の計算を引用し、このファンドの投資家は平均で毎年約11%の損失。
- Kahneman & Tversky (1979), "Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk," Econometrica 47(2)。
- Benartzi & Thaler (1995), "Myopic Loss Aversion and the Equity Premium Puzzle," Quarterly Journal of Economics 110(1)。
- Thaler, Tversky, Kahneman & Schwartz (1997), "The Effect of Myopia and Loss Aversion on Risk Taking: An Experimental Test," Quarterly Journal of Economics 112(2)。
- Jeremy Grantham, "Let the Wild Rumpus Begin"(GMO、2022年1月);"Entering the Superbubble's Final Act"(GMO、2022-08-31、gmo.com)。
- チャーリー・マンガー、2007年 南カリフォルニア大学(USC)ロースクール卒業式でのスピーチ:毎晩寝る前には、朝起きたときより少しだけ賢明になっていること。
- 『慢慢変富』〔「ゆっくり豊かに」〕。
- ノーベル財団(nobelprize.org):ノーベルの遺産、財団の資産運用と年次財務データ;1953年の投資制限の緩和:IPE〈Keeping faith with the past〉(ipe.com)。
- ブラックロック iShares 20+ Year Treasury Bond ETF(TLT)の過去の価格(ishares.com)。
- 「Mr. Buffett on the Stock Market」『フォーチュン』(Fortune)1999-11-22(バフェットの講演、キャロル・ルーミスによる構成、fortune.com):金利は、重力が物体に働くように、金融資産の評価に働く。
- エリザベス・キューブラー=ロス(Elisabeth Kübler-Ross)On Death and Dying(Macmillan、1969年):悲嘆の5段階。
- 「投資はシンプルだが、簡単ではない」:バフェットは2009年のバークシャー株主総会で「何度も言ってきたように、それはシンプルだが、簡単ではない」と述べた(『フォーチュン』2009-05-08の報道、fortune.com)。それより前に他の書き手が書いた類似の言い方は、Barry Popik の調査(barrypopik.com)を参照。