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第4章

第4章 大道至簡

約20分・考え方12個

「真の教えは一言で足り、偽りの教えは万巻の書を要する。」

投資で手にするのは、時間が生んでくれるお金です。そして、時間に力を発揮させるもの、それが複利です。複利を株式投資に生かし、安定していて、繰り返すことができ、長く続けられる投資法を築くには、まず「第一原理」を使って、「複利」と「株式市場」の本質をはっきり見きわめておく必要があります。

ウォール街は投機を勧めます。投機はウォール街の利益になるからです。複雑で、真実から遠いものほど、きれいに包装されて売り込まれがちです。けれども、本当に役に立つ道理は、たいてい一言二言で言い尽くせるほどシンプルなものです。


一、第一原理

「第一原理」という言葉は、イーロン・マスクがよく口にすることで知られるようになりました。意味はとても素朴です。「みんながそうしているから」という理由でまねをするのではなく、まず「この物事のいちばん根本にある事実は何か」と問い、そこから改めて考え直す、ということです。

よく例に挙げられるのが、電気自動車のバッテリーです。かつては誰もが「バッテリーが高すぎて、電気自動車は商売にならない」と言っていました。マスクはバッテリーを原材料にまで分解し、材料が実際にいくらするのかを一つひとつ計算しました。すると、高いのは材料そのものではなく、つくり方のほうだとわかったのです。そこで製造工程とサプライチェーンに手を入れ、コストを引き下げました。

私はこの考え方を借りて、投資を見ています。市場には、とても聞ききれないほどの言説があふれています。それを一つずつ追いかけるより、いちばん底まで立ち返って、二つのことだけを問うほうがいい。お金はどうやって増えるのか。株式市場はどう動いているのか。この二つが腑に落ちれば、雑音の大半は聞かずにすみます。

認知の4つの段階

心理学に「能力の4段階」という考え方があります。私なりの言葉で、それを投資に当てはめてみます。

  1. 自分が知らないことを知らない:少し儲かっただけで、もうわかったつもりになっている段階。
  2. 自分が知らないことを知っている:痛い目にあって畏れを抱くようになり、一から学ぼうとする段階。
  3. 自分が知っていることを知っている:法則が見えてきて、やり方を持って行動できる段階。
  4. 考えなくてもできる:規律がすでに習慣になり、市場がどれほど騒がしくても、正しいことをいつもどおり続けられる段階。

株式市場で損をする人のほとんどは、第一段階で止まっています。


二、複利の法則

複利とは、利息が利息を生むことです。お金がお金を生み、利益がさらに利益を生む。得た収益を再投資して元本に組み入れ、積み上げ続けることで、さらに多くの収益が生まれます。

元本 ×(1+リターン)^ 期間 = 元利合計

私はこれを、四つの要素に分けて考えています。

  1. 元本:お金を減らさないこと。元本が大きく損なわれると、複利はその土台を失います。
  2. 倍率:毎年の成長率(つまり1+リターン)です。倍率が高いほど、速く増えていきます。同じ資産でも、安い価格で買うほど高い倍率が得られます。
  3. 時間:長く持ち続け、途中でやめないこと。複利の効果の大半は、後半になってから現れます。
  4. 条件が変わらない安定性:投資する対象は、長く存在し、長く成長し続けるものでなければなりません。途中で消えてしまえば、何年もかけて積み上げた複利の成果は一瞬で水の泡になります。
複利の4つの要素複利の4つの要素元本損をしない×倍率1+利回り^時間中断しない=元利合計条件が変わらない安定性:投資先が長く存在し、長く成長し続けること全市場インデックスETFは4つの要素をすべて満たす:消えない、経済成長を分かち合える、低コスト、一生持てる著者作成の図を再作成
図 4-1|複利の4つの要素

ふつうの家庭にとって、この四つの要素をいちばんよく同時に満たしてくれるのが、全市場インデックスETFです。連動する指数そのものは、一つの会社のように倒産して消えることはなく(元本と安定性)、経済全体の長期的な成長を分かち合えます(倍率)。そしてあなたは、長く持ち続けて、それを途中で断ち切らなければいいのです(時間)。

アインシュタインの言葉としてよく紹介される「複利は世界で8番目の不思議である」は、実はもともと1910〜1920年代に米国の金融会社が使っていた広告文句で、アインシュタインの死後になって彼の名前が付けられたものです。とはいえ、この言葉が語っている道理そのものは正しいのです。

複利の物語

毎日100万台湾ドルをもらうか、初日に1台湾ドルをもらって、その後は毎日倍にしてもらうか?

ある大金持ちがあなたにお金をくれると言って、二つの選択肢を示したとします。

  • A:31日間続けて、毎日100万台湾ドルずつもらう。
  • B:1日目は1台湾ドル、2日目は2台湾ドル、3日目は4台湾ドル……と毎日倍にして、31日間続けてもらう。

Aを選べば、受け取るのは3,100万台湾ドルです。Bを選べば、最終日だけで約10.7億台湾ドル、31日間の合計は約21.5億台湾ドルになります。

王様とチェス盤の上の麦

昔から語り継がれてきた話です。王様が、チェスを指す一人の賢者に褒美を与えようとしました。賢者が望んだのは麦だけでした。チェス盤の最初のマスに1粒、次のマスにはその倍の2粒、その次のマスには4粒……と倍にしながら、64マスすべてを埋めてほしいというのです。王様は「ずいぶん欲のないことだ」と笑ってすぐに承知しましたが、実際に数え始めてみると、国じゅうの穀物倉を空にしてもまったく足りないことがわかりました。

64マスを埋めるには、全部で約1,845京粒の麦が必要です。一般的な小麦の重さを1,000粒あたり30〜50グラムとして計算すると、約5,500億〜9,200億トン。これは世界の小麦生産量の650〜1,200年分に当たります。

この二つの話が教えてくれるのは、富を築くには、資金よりも時間のほうが大切だということです。「まとまったお金が貯まったら投資を始めよう」と言う人はたくさんいます。けれども実は、いつ始めるかこそが、いちばん大切なのです。

複利の威力:毎月2,000台湾ドル、時間が長いほど差は広がる複利の威力:毎月2,000台湾ドル、時間が長いほど差は広がる05,000万1億1.5億0102030405060708080年で約1.46億65年で約1.15億毎月2,000台湾ドル毎月5,000台湾ドル著者計算:年8%、毎月積立、月複利(名目額)。インフレ率を年2%とすると、65年後の1.15億台湾ドルは現在の約3,200万台湾ドルに相当
図 4-2|複利の威力:毎月2,000台湾ドル、時間が長いほど差は広がる

時間は億万長者製造機

赤ちゃんが生まれたその日から、親が毎月2,000台湾ドルずつ、長期リターン8%の資産を買ってあげたとします。80年後には約1.46億台湾ドルになります。毎月5,000台湾ドルなら、65年後に約1.15億台湾ドルです。

この道理は何も神秘的なものではありません。ただ、わざわざ教えてくれる人がほとんどいないだけです。注意してほしいのは、これが名目の金額だということです。65年後の1.15億台湾ドルは、インフレによって購買力が削られます。年2%のインフレで計算すると、今日の価値でおよそ3,200万台湾ドルにすぎません。それでも、生まれたときから始める少額の投資は、一人の人間を一生お金の心配から解放してくれます。これが時間の力です。(第5章「長期保有」で、米国と台湾の実際の過去のリターンを使って計算し直します。)


三、株式市場

『道徳経』の精神は、よく「大道至簡」の四文字で要約されます(ただし、この四文字そのものは『道徳経』の原文には出てきません)。物事が移り変わる原理や法則、方法は、たいていきわめてシンプルだ、という意味です。

株式市場も同じで、情報の大半は雑音です。株式市場のいちばん基本的な事実は、二つしかありません。

  1. 株式市場は長期的に上昇する:人類が進歩を続け、企業が利益を上げ続けるかぎり、株式市場は長い目で見れば成長します。
  2. 株式市場にはサイクルがある:暴騰と暴落は、切っても切れない相棒です。コストラニーはこう言いました。「これは永遠の法則である。証券市場の暴落と崩壊はいつも暴騰が先触れとなり、暴騰はいつも暴落で幕を閉じる。」(中国語版からの訳)

サイクルを理解する目的は、天井を当てて最高値で売ることではありません(過去のデータを見ると、そうしたやり方は長い目で見ればかえって損になります)。暴落のときに怖がらず、むしろ思い切って買い増せるようになることです。

1. 相場のサイクル

サイクルを説明するのにぴったりなのが、コストラニーの卵の理論です。卵を立てて、殻に沿ってぐるりと一周すると、それが一つの完全なサイクルになります。いちばん下のY点から上っていくと、はじめは取引が閑散としていて、株を持っている人はわずかです。上に行くほど市場に入ってくる人が増え、売買も活発になります。てっぺんのX点では出来高が最大になり、ほとんど誰もが株を持っています。そこから反対側を下っていくと、売る人がどんどん増え、Y点まで戻ってきたところで株を持つ人は最も少なくなり、出来高が再び膨らみます。持ちこたえられなくなった最後の人たちが、損を承知で手放しているのです。コストラニーの助言はシンプルです。下落の最後、みんながいちばん絶望しているときに買いなさい、というものです。

コストラニーの卵の理論コストラニーの卵の理論最高点X:株を持つ人が最も多い最低点Y:株を持つ人が最も少ないA1 修正出来高が少なく、保有者も少ないA2 追随出来高も保有者も増えるA3 行き過ぎ出来高が急増、保有者が最多B1 修正出来高が少なく、保有者が減り始めるB2 追随出来高が増え、保有者はさらに減るB3 行き過ぎ出来高が多く、保有者が最少上昇 ↑↓ 下落B3の恐慌で買う概念はアンドレ・コストラニーより。著者が再作図
図 4-3|コストラニーの卵の理論

卵の殻の各区間を人の気持ちに置き換えると、だいたい次のようになります。

上りの3区間では、気持ちが懐疑から楽観へ、そして熱狂へと移っていきます。はじめは、誰もが前回の下落にすっかりおびえていて、株に手を出そうとしません。価格がひっそり上がり始めても、気にとめる人はいません。やがて景気が上向き、企業が儲かるようになると、市場に戻ってくる人が増え、上昇に勢いがつきます。最後には、ふだん株に縁のない親戚や友人までが儲かる銘柄の噂をするようになり、乗り遅れたくないという気持ち(FOMO)がすべてを押し流します。そのころには、価格はもう企業の本当の価値をはるかに超えています。

下りの3区間では、気持ちが失望から悲観へ、そして絶望へと移っていきます。下がり始めたころは、ニュースもまだそれほど悪くなく、みんな一時的な調整だと考えて、下がるほど買い増します。やがて悪いニュースが表に出てきて、株価指数が高値から20%以上下がり、本格的な弱気相場に入ると、誰もが我先にと逃げ出します。最後には悪材料が次々と重なり、みんな株式市場にすっかり嫌気がさして、もう見るのもやめてしまいます。そして、たいていは誰も見向きもしなくなったそのころに、弱気相場は終わりを迎えるのです。

強気相場と弱気相場をそれぞれ三つの段階に分けるのは、ダウ理論以来の古い見方です。ジョン・テンプルトンにも、「強気相場は悲観の中で生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、熱狂の中で終わる」という名言があります。ただし、こうした段階がはっきりわかるのは、あとから振り返ったときだけです。渦中にいると、どの段階でも「今回は違う」と感じてしまいます。だから私は、これを転換点を当てるためには使いません。みんながいちばん絶望しているときには少し多めに買うのを忘れないように、と自分に言い聞かせるためだけに使っています。

ピーター・リンチのカクテルパーティー理論は、パーティーの雰囲気で市場の温度を測るものです。彼によれば、パーティーで「ファンドマネジャーをしています」と名乗ったときの相手の反応は、四つに分けられるといいます。

  1. 誰も興味を示さず、みんな歯医者をつかまえて歯痛の話をしたがる——市場はたいてい底の近くにある。
  2. 少し話をしてくれる人がいて、ついでに相場が悪いと愚痴をこぼす——市場はそろそろ持ち直すかもしれない。
  3. 人だかりができて、どの銘柄を買えばいいかと聞かれる——市場はすでにかなり上がっている。
  4. 逆に、周りの人たちが「この銘柄を買うべきだ」と彼に教えてくる——市場は過熱しているかもしれない。

今ふうに言えば、あなたのLINEグループで毎日のように推奨銘柄を流す人が現れたら、頭を冷やすべきときです。

2. 感情の振り子

ハワード・マークスは『投資で一番大切な20の教え』の中で、市場の感情を振り子にたとえています。振り子の真ん中こそが「妥当な」位置なのに、振り子がそこに止まることはほとんどなく、いつも強欲から恐怖へ、恐怖から強欲へと揺れ動いています。どれほど高く振れても、最後には必ず戻ってきます。

『賢明なる投資家』に解説を書いたジェイソン・ツバイクも、同じイメージを使っています。市場はいつも、楽観しすぎと悲観しすぎのあいだを行き来している。頭の冷静な人とは、他人が楽観しすぎているときには一緒になって買わず、他人が悲観しすぎているときには進んで買い手に回る人のことだ、と。

全市場ETFだけを買う家庭にとって、振り子の使い方は一方向だけです。振り子が恐怖の側に振れたときは、多めに買うチャンスです。強欲の側に振れたときは、周りにつられて借金をしたり賭け金を増やしたりしないよう自分に言い聞かせ、これまでどおりのペースで積立投資を続ければいいのです。

市場の感情の振り子市場の感情の振り子恐怖:安値、多く買うチャンス中点:妥当強欲:高値、借金も追加投資もしない振り子が中点にとどまる時間は短く、いつも両端のあいだを揺れている概念はハワード・マークスより。著者が再作図
図 4-4|市場の感情の振り子

3. バブル

バブルとは何か?一言でいえば、価格が行き過ぎて、その資産が将来どれだけ稼いでも支えきれないほど高くなった状態です。そしてバブルがはじけると、誰もが我先に売るので、今度は価格が下がりすぎ、本当の価値より安くなってしまうこともよくあります。

バブルはどうやってできるのか?振り返ってみると、バブルにはほとんど必ず本物の出発点があります。チューリップは本当に美しかったし、インターネットは本当に世界を変えたし、電気自動車は本当に未来の乗り物です。新しいものだからこそ、それにどれだけの価値があるのか誰にもわからず、想像の余地が際限なく膨らみます。良いニュースが次々と続き、人々の気持ちは半信半疑から期待へ、期待からますます強い楽観へと進み、ついには熱狂に至って、はじけるのです。

バブルの中にいる人は何を考えているのか?こうした人間の弱点については世間にいろいろな整理があり、呼び名もまちまちです。私なりの言葉で、バブルでとくによく見られるものをいくつか挙げてみます。

  • 周りがみんなやっていると、自分の判断が群衆の感情に飲み込まれる(同調と増幅)。
  • 毎日買って毎日儲かるうちに、ずっと儲かり続けると思い込む(条件づけ)。
  • 高い価格が長く続くと、みんなその高値を当たり前だと思うようになる(アンカリング効果)。
  • 高すぎるとわかっていても買う。あとからもっと高い値段で引き取ってくれる人が現れると信じているからだ(グレーター・フール理論)。
  • 聞きたいことだけを聞き、警告を雑音として片づける(認知的不協和)。

これを他人事だと思わないでください。渦中にいれば、誰でもこうした罠にはまる可能性があります。

歴史上のバブル:17世紀オランダのチューリップ狂騒、18世紀イギリスの南海会社とフランスのミシシッピ会社、1929年の米国株、1989年の日本株、2000年のITバブル、2008年の世界金融危機……

ニュートンほど聡明な人でさえ、1720年の南海泡沫事件で大損をしました。彼は後にこう嘆いたと言われています。「天体の動きは計算できても、人々の狂気は計算できない。」(この言葉は後世の人が伝えたもので、ニュートン本人による一次記録は見つかっていません。)

三つの有名なバブル:ピーク=100、前3年と後7年(横軸:ピークからの月数)三つの有名なバブル:ピーク=100、前3年と後7年(横軸:ピークからの月数)020406080100120-36-24-12012243648607284ピーク米国株 1929年台湾株 1990年米国株 2000年ピーク月:1929-09、1990-02、2000-08。出典:シラーのS&P 500月平均株価(配当含まず)、台湾の中央銀行の加権指数の月平均。著者計算
図 4-5|三つの有名なバブル:ピーク前後の値動き データラボで試す →

バブル崩壊の過程:バブルを専門に研究してきた投資家ジェレミー・グランサム(Jeremy Grantham)によれば、「スーパーバブル」がはじけるときのよくある筋書きはこうです。まず上昇してバブルになり、続いて第一波の下落が来る。次に反発局面があり、強気相場が戻ってきたと思わせる。最後にファンダメンタルズが本当に悪化して、底まで一気に下がっていく。

ただ、正直にお伝えしておかなければなりません。グランサムほどの専門家でも、リアルタイムの判断は外れることがあります。彼は2022年8月、米国株はスーパーバブルの崩壊途中にあり、弱気相場の反発のあとにさらに下がると公に判断しました。ところが米国株は2023年には上昇基調に戻り、その後、最高値を更新しました。私自身も2024年に、本書の指標をもとに台湾株のバブルがまもなくはじけると判断しましたが、あとから見れば外れでした。(第5章「なぜ私は高値で売るのをやめたのか」で詳しくお話しします。)

4. 台湾株の大暴落

期間 高値 安値 下落率
1990年 12,682(2月) 2,485(10月) 約−80%
1997〜1999年(アジア通貨危機) 10,256(1997年8月) 5,422(1999年2月5日、取引時間中) 約−47%
2000〜2001年(ITバブル) 10,393(2000年2月) 3,411(2001年9月) 約−67%
2007〜2008年(世界金融危機) 9,859(2007年10月) 3,955(2008年11月) 約−60%
2022年(利上げとインフレ) 18,619(1月) 12,629(10月) 約−32%
2024〜2025年 24,416(2024年7月) 17,307(2025年4月9日、取引時間中) 約−29%

(高値・安値の多くは取引時間中の数値です。1999年以降は台湾証券取引所の過去データ、それ以前はメディアの報道によります。)

大暴落のたびに、その時点ではまるで世界の終わりのように感じられました。けれども台湾株は、これまでのところ毎回、最高値を取り戻してきました。2024年2月には2022年の高値を突破し、2026年10月には49,000ポイントを超えるところまで来ています。ただし日本株は、1989年の高値を取り戻すのに34年かかりました。どの市場でもこれほど早く戻ると保証できる人はいません。

台湾加権指数 1987〜2026年と歴代の大暴落(対数目盛)台湾加権指数 1987〜2026年と歴代の大暴落(対数目盛)2,0005,00010,00020,00019871991199519992003200720112015201920231990200120082022出典:台湾の中央銀行『金融統計月報』(加権指数の月平均)。台湾の政府オープンデータライセンス第1版に基づき使用。著者整理
図 4-6|台湾加権指数 1990〜2026年と歴代の大暴落

5. なぜ個人投資家は何度も「刈り取られる」のか

突き詰めれば、個人投資家が何度も痛い目にあうのは、ハンドルを感情に明け渡してしまうからです。上がれば興奮して追いかけ、下がれば怖くなって逃げ出す。あいにく、メディアやさまざまな情報は、火に油を注ぐのが得意です。相場が良いときにはどこを見てもバラ色の未来が語られ、相場が悪いときにはどこを見ても終末の予言があふれます。

下落も、一度で下がりきることはめったにありません。たいていは段階的に、上がったり下がったりしながら進みます。少し反発しては、安いうちに拾おうとする人を呼び込み、もう一段下がっては、その人たちを怖がらせて追い出す。これを何度か繰り返すうちに、お金は出たり入ったりするあいだに流れ去ってしまいます。

私のやり方は、一歩下がって傍観者になることです。この追いかけっこのゲームに加わらなければ、刈り取られることもありません。上げ下げを当てようとせず、規律を守って積立投資を続け、暴落のときに買い増す。それで十分です。

6. よく耳にする二つの教訓

次の二つは、インターネット上で広まった話です。細部まで一つひとつ確かめることはできませんでしたが、同じようなことは暴落のたびに繰り返されています。

  • ある投資家は、かつて高収入のエンジニアで、早期退職したときには1,000万台湾ドル近い株式と退職金を持っていました。2008年に世界金融危機が襲うと、信用取引で多額の借金をして株を買っていたため、強制決済に追い込まれ、続いて家を失い、家族もばらばらになりました。70歳になると、日雇いの仕事と高齢者向けの手当で食いつなぐしかなくなり、そのうえ株の買付代金を払えない受渡不履行を何度も繰り返しました。
  • もう一人は会社員で、2020年にデイトレードで600万台湾ドル余りを稼ぐと、高給の仕事を辞めて専業のデイトレーダーになりました。ところが2年のうちに1,000万台湾ドル以上を失い、車まで売り払うことになりました。

二人に共通していたのは、たった三つです。借金、レバレッジ、短期売買。過去にいくら稼いだかなど、市場はまったく気にかけてくれません。


本章のポイント

  1. 第一原理で投資を見ると、複利は「元本・倍率・時間・条件が変わらない安定性」でできています。
  2. 全市場インデックスETFは、複利の4つの要素をいちばんよく同時に満たしてくれます。
  3. 資金より時間のほうが大切です。始めるのは早ければ早いほどいいのです。
  4. 株式市場は長期的に上昇しますが、サイクルもあります。サイクルを理解するのは、暴落のときに怖がらず、思い切って買い増すためであり、天井を当てて売るためではありません。
  5. バブルは何度も起きますが、リアルタイムの判断は専門家でも外れます。借金をしない、レバレッジをかけない、短期売買をしないことです。

出典(参照日:2026-10-12)

  • イーロン・マスクがバッテリーのコストを例に第一原理を説明:2012年のKevin Roseによるインタビュー(CNBC、2020-02-28の記事、cnbc.com)。
  • 「能力の4段階」モデル:Noel Burch/Gordon Training International。
  • 「複利は世界で8番目の不思議」の出所の考証:Quote Investigator, "The Eighth Wonder of the World Is Compound Interest"(quoteinvestigator.com、2019-09-09)。Alice Calaprice編 The Ultimate Quotable Einstein(Princeton University Press)では「Probably Not By Einstein」の項に収録。
  • 世界の小麦生産量:国連食糧農業機関(FAO)のFAOSTAT(fao.org)。
  • 『道徳経』。
  • アンドレ・コストラニー《一個投機者的告白》(『ある投機家の告白』、商業周刊;ドイツ語原書 Die Kunst über Geld nachzudenken、Econ、2000年)。本書のコストラニーの言葉は中国語版からの訳。
  • ピーター・リンチ、ジョン・ロスチャイルド《彼得林區選股戰略》(『ピーター・リンチの株で勝つ』、財信)。原著 One Up on Wall Street(1989)。
  • ハワード・マークス《投資最重要的事》(『投資で一番大切な20の教え』、商業周刊、2017)。原著 The Most Important Thing(Columbia University Press、2011)。
  • Benjamin Graham, The Intelligent Investor, Revised Edition, commentary by Jason Zweig(HarperBusiness、2003)。
  • Odlyzko (2019), "Newton's financial misadventures in the South Sea Bubble," Notes and Records: the Royal Society Journal of the History of Science:ニュートンの言葉として広く引用される英語の文言("I can calculate the motions of the heavenly bodies, but not the madness of people")。
  • Jeremy Grantham, "Entering the Superbubble's Final Act"(GMO、2022-08-31、gmo.com)。
  • ロバート・シラーのS&P 500過去データ(Robert J. Shiller, Online Data、econ.yale.edu/~shiller)。
  • 台湾の中央銀行『金融統計月報』(cbc.gov.tw)。
  • 台湾証券取引所・加権株価指数の過去データ(twse.com.tw)。
  • ロバート・レア(Robert Rhea)The Dow Theory(1932年):ダウ理論では、強気相場と弱気相場をそれぞれ三つの段階に分ける。
  • ジョン・テンプルトン(John Templeton)"Bull markets are born on pessimism, grow on skepticism, mature on optimism, and die on euphoria":確認できる最も早い掲載は1994年(Barry Popikの調査、barrypopik.com)。引用は英語原文からの訳。