
第6章 投資は敗者のゲーム
投資の世界には、昔からこんな言葉があります(ハワード・マークスもよく引用しています)。「年老いた投資家もいれば、大胆な投資家もいる。だが、年老いていて、しかも大胆な投資家はいない。」
一、守りの投資
1975年、投資コンサルタントのチャールズ・エリスが、テニスにたとえた話を書いています。私はずっとそれを覚えています。プロの試合を見ると、得点の多くは自分で打ち取ったもので、攻撃が見事なほうが勝ちます。これは「勝者のゲーム」です。一方、私たちのような週末プレーヤーの試合では、得点の多くは相手がくれたものです。ボールはネットにかかるか、アウトになるか。ミスの少ないほうが勝ちます。これが「敗者のゲーム」です。株式市場では、私たちのほとんどが週末プレーヤーです。ほとんどの人にとって、投資は敗者のゲーム——ミスの少ない人が勝つのです。
長年株式市場にいて、私があえて予測できることはただ一つ、市場は予測できないということです。いつか必ず、誰も思いもしなかったことが起こります。西洋で言う「マーフィーの法則」も、同じことを言っています。失敗する可能性のあるものは、いずれ失敗する。物事はたいてい見かけより複雑で、時間も予想より長くかかる。失敗が必ずやって来るのなら、どう勝つかを考えるより、まずどうすれば負けないかを考えたほうがいいのです。
ハワード・マークスは、こうした姿勢を「守りの投資」と呼び、戒慎恐懼(かいしんきょうく)の心で投資すべきだ(invest scared)と説いています。私の理解では、投資をするときには、心の中にいつも三つの心配を置いておく必要があります。損をしないだろうか? 自分の知らないことはないだろうか? たとえ判断が正しくても、運が悪かったり思わぬ出来事に遭ったりして、やはり傷を負うことはないだろうか?
マークスは、守りの核心は「誤りに備えた余裕(マージン・フォー・エラー)」にあると考えています。自分の判断に、ゆとりを持たせておくということです。買うものには、確かで長続きする価値があること。価格は妥当で、できれば割安であること。借金をしないこと。卵を一つのかごに盛らないこと。こうしておけば、絶好の相場では人より少し儲けが少なくなるかもしれませんが、悪い日が来たときには、無事に切り抜けられる可能性がいちばん高くなります。彼の言葉で、私がとても気に入っているものがあります。「平均の深さが5フィートの川を渡ろうとして溺れた、身長6フィートの男のことを決して忘れるな。」平均は安全そうに見えても、本当に命取りになるのは、途中にある、目に入らなかった深みなのです。
全市場ETFだけを買う家庭にとって、守りの投資とは次のようなことです。
- 借金をしない、レバレッジをかけない。
- 世界全体に分散する。
- 緊急予備資金と、近いうちに使うお金を十分に確保しておく。
- 一生、積立投資を続け、恐怖や強欲で方針を変えない。
私の投資ルール
韓国の企業家キム・スンホが投資の原則をまとめていて、読んで深く共感しました。次の8か条は、彼の考えを参考にしながら、私自身の経験に合わせて足したり削ったり、書き直したりしたものです。最初の6か条はキム・スンホから取り、最後の2か条は私が加えました。
- 「すぐに大金が稼げる」仕事や機会を見たら、背を向けて立ち去る。
- 人の命を傷つけ、良心に背く商売には、どれほど儲かっても手を出さない。
- わからないものは買わない。
- まず時間をお金に換え、次にそのお金で時間を買い戻す。
- 上がったものは追いかけない。
- 危機が来たら少し多めに買い、ブームが来たら少し冷静になる。
- 物事は少なくとも10年単位で考える。
- 借金をしない、レバレッジをかけない、推奨銘柄の噂に耳を貸さない。
二、市場温度計チェックリスト
私は以前、「投資評価表」という一枚の表を使って、株式市場が今どの段階にあるのか、売り買いすべきかどうかを判断していました。「高値で売る」のをやめてから、この表の役割も変わりました。もう、いつ売るべきかを教えてくれるものではありません。市場が今どれくらい熱いのか、冷たいのかをはっきり見せてくれて、恐怖のときには逃げ出さないように、強欲のときには衝動に走らないように、と思い出させてくれるものです。
データは月次で、毎週自動更新しています。本書のウェブサイトの「市場温度計」に載せています。
| 観点 | 指標 | 何を見るか | 市場がとても冷たい(恐怖)とき | 市場がとても熱い(強欲)とき |
|---|---|---|---|---|
| 価格 | 台湾加権指数とS&P 500の、10年平均に対する比率 | 今の価格が長期平均からどれだけ離れているか | 比率が1を下回る=価格が10年平均より低い(歴史的にまれ) | 比率がとても高い=借金をしない、買い足さないと自分に言い聞かせる |
| 価格 | 高値からの下落率 | 今が過去最高値からどれだけ下がっているか | 20%を超える下落=一般に弱気相場と呼ばれる | — |
| バリュエーション | バフェット指標(株式時価総額÷GDP) | 経済規模に対する株式市場全体の大きさ | 低め=歴史的には、その後10年間のリターンの中央値が高め(予測ではない) | 高め=将来のリターンは低めになるかもしれないが、すぐに下がるという意味ではない |
| 人気 | 台湾株の売買代金(過去1年との比較、ピーク時の何割か)、当月に取引のあった口座数、台湾集中保管結算所(TDCC)の新規口座開設数 | 個人投資家の参加の熱気 | 売買が細り、閑散としている=他人が恐れている | 売買が急増し、誰もが株に夢中=他人が強欲になっている |
| レバレッジ | 台湾株の信用買い残(融資残高)、米国の証券会社による信用貸付(FRBのデータ) | みんながどれだけ借金をして株を買っているか | 信用買い残が急減=恐慌、強制決済の連鎖 | 信用買い残が過去最高=市場が借りたお金で動いている |
| 恐慌 | 金融ストレス指数(セントルイス連邦準備銀行) | 金利、金利差、ボラティリティなど18項目のデータを総合したもの | とても高い=金融市場の緊張、恐慌 | とても低い=慢心 |
| 資金 | 外国人投資家の買い越し・売り越し、台湾ドルの為替レート、FRBの金利の方向 | お金がどこへ流れているか | 外国人の大幅な売り越し、台湾ドルの急落=恐慌 | 外国人の大幅な買い越し、台湾ドルの急騰=ホットマネー |
この表はどう使えばいいのか?
- ふだん:私はこれまでどおりのペースで積立投資を続けます。毎日見る必要はありません。
- 多めに投資するかどうか:私の買い増しのルールは前もって決めてあります(第5章第3節)。新しい収入があり、指数が高値から2割以上下がったときだけ、多めに投資します。温度計を見て底を当てようとはしません。
- とても熱く、強欲が広がっているとき:私は借金をしない、賭け金を増やさない、買い足さない。株式が総資産に占める割合が、もともと決めた水準を超えていないかを確認し、必要なら新しいお金で債券を買ったり預金に回したりして、比率を元に戻します。
この表は自分の感情を管理するためのもので、明日の上げ下げを予測するためのものではありません。私は以前、この表で天井を判断しようとして、外したことがあります(第5章第6節を参照)。
本章のポイント
- 投資は敗者のゲームです。ミスの少ない人が勝ちます。
- 守りの投資とは、戒慎恐懼の心で、誤りに備えた余裕を残しておくことです。レバレッジをかけず、分散し、予備資金を確保し、積立投資を続けます。
- 温度計は、感情をはっきり見るためだけに使います。冷たいときは逃げ出さないよう自分に言い聞かせ、熱いときは借金をせず、買い足しもしません。
出典(参照日:2026-10-12)
- Ellis, Charles D. (1975), "The Loser's Game," Financial Analysts Journal(1975年7/8月号)。中国語訳:チャールズ・エリス《投資終極戰:贏得輸家的遊戲》(『敗者のゲーム』、大牌出版、2020、20周年増補改訂版)。
- ハワード・マークス《投資最重要的事》(『投資で一番大切な20の教え』、商業周刊、2017)。原著 Howard Marks, The Most Important Thing(Columbia University Press、2011)。守りの投資、誤りに備えた余裕、「平均の深さが5フィートの川を渡ろうとして溺れた、身長6フィートの男のことを決して忘れるな」。守りの投資を扱う章は「年老いた投資家もいれば、大胆な投資家もいる。だが、年老いていて、しかも大胆な投資家はいない」という言葉で始まる。
- キム・スンホの投資原則(本章の8か条のうち最初の6か条はその原則から取って著者が書き直したもの、最後の2か条は著者が加えたもの)。
- 米連邦準備制度の経済データベースFRED(fred.stlouisfed.org):セントルイス連邦準備銀行金融ストレス指数 STLFSI4、非金融企業の株式時価総額 NCBEILQ027S(FRB Z.1)、米国の名目GDP(BEA)、フェデラルファンド金利 FEDFUNDS、台湾ドル対米ドル為替レート DEXTAUS。
- ロバート・シラー(Robert J. Shiller)のS&P 500長期データ:shillerdata.com。
- 台湾の中央銀行『金融統計月報』の証券市場(EG27M01:加権指数、売買代金、上場時価総額)と信用買い残(EG25M01)。行政院主計総処の国内総生産(四半期)。以上は台湾の「政府データ開放ライセンス 第1版」(Open Government Data License, version 1.0)に基づいて利用。