
付録1 なぜ私は、最後に全市場インデックスだけを買うことにしたのか
私は最初から全市場インデックスETFだけを買っていたわけではありません。長いあいだ、個別株を研究し、主導株を追いかけ、セクターETFも買っていました。この経験を書き残しておくのは、家族に同じ回り道をしてほしくないからです。
1. 私が研究した銘柄選びの方法
- バフェットの「消費者独占型企業」:当時私が探していたのは、こんな会社です。みんなが毎日使い、使い終わればまた買う。乗り換えようにも代わりが見つからない。値上げしても、お客さんは変わらずやって来る。稼ぎの源はブランドのような目に見えない資産で、手元の現金が多く、借入金は少なく、自己資本利益率(ROE)は長年20%を超えている。コカ・コーラ、シーズ・キャンディーズ、ジレットのカミソリ、アップルは、いずれも私が研究した例です。
- フィッシャーの成長株:バフェットは1969年に『フォーブス』のインタビューで、自分の手法をこう語っています。「私は15%がフィル・フィッシャーで……85%がベンジャミン・グレアムだ」。フィッシャーの要点は、10年のうちに何倍にも成長できる会社を見つけ、買ったら辛抱強く持ち続けることです。彼は『株式投資で普通でない利益を得る』(Common Stocks and Uncommon Profits、1958)の中で、「普通株を買うときになすべき仕事がきちんとなされていれば、それを売るべきときは——ほとんど来ない」と書いています。
- ピーター・リンチのテンバガー(10倍株):リンチは、日常生活の中から急成長している会社を探し、それを一項目ずつチェックするよう教えています。主力製品が売上高のどれくらいを占めているか、利益が1年でどれだけ伸びているか(彼は20%〜25%が最も理想的だと考えていました)、出店や事業拡大はうまくいっているか、成長の余地はあとどれくらいあるか、PER(株価収益率)は割高ではないか、機関投資家がまだ大量に買っていないか。買うタイミングについては、大きな下落や暴落で、誰も手を出そうとしないときに動けと言っています。
- 強気相場ごとの主導株:たとえば2009〜2022年の米国の巨大テック企業や、台湾のTSMCです。その時々の主導株だけを買い、ただし長くは持たないというやり方をする人もいます。潮流が引けば、主導株の大半は色あせてしまうから、というのがその理由です。
- 成長産業のセクターETF:当時の私の考えは、三人の名人の知恵を合わせることでした。孫正義の「これから30年の成長産業に賭ける」、バフェットの「確実性を重んじる」、ボーグルの「ただ干し草の山を買えばいい」を借りて、半導体やテクノロジーといった産業のインデックスETFを買ったのです。
- PEGレシオ(株価収益成長率):PERを利益成長率で割ったものです。おおむね1倍なら妥当、0.75倍以下なら割安、1.2倍以上だと割高気味とされます。
2. なぜ最後にあきらめたのか
- 勝者は少なすぎるうえ、事前には見分けられない。1926〜2019年の米国の上場企業のうち、57.8%は株主の富を減らしました。富は、ごく少数の企業によって集中的に生み出されているのです。バフェットが当時なぜコカ・コーラを買ったのかは、私にも説明できるかもしれません。けれども、次のコカ・コーラがどこなのかを前もって知ることはできません。
- 最大の企業でさえ、取って代わられる。米国の時価総額上位の企業は、20年ごとにほぼ顔ぶれが入れ替わっています。今日の主導株が、20年後もまだ残っているとはかぎりません。
- 成長産業を見抜いても、儲かるとはかぎらない。1903年にフォードが創業した前後、米国には少なくとも2,000の自動車ブランドが次々と生まれましたが、1990年代には米国の自動車メーカーは3社しか残っていませんでした(バフェット、1999年)。自動車は確かに世界を変えましたが、ほとんどの自動車会社の株主は損をしたのです。注目される産業ほど価格がつり上げられやすく、シーゲルの言う「成長率の罠」に落ちてしまいます。
- 時間も判断も、感情のコントロールも、あまりに多く必要になる。判断の一つひとつが、間違いを犯す機会になります。やり方を子どもに伝えたい家庭にとっては、シンプルであるほどいいのです。
- 私自身の経験もそうだった。私が見込んだ株や、買ったセクターETFの中には、確かに好成績を上げたものもありました。けれども、1、2年上がらなかったり、大きく下がったりしたときには、平静を保つのが難しいと感じました。全市場ETFなら不安になりません。連動する指数そのものが消えてなくなることはないと、わかっているからです。
3. それでも個別株を買いたいなら
家族に伝えている私の原則はこうです。どうしても個別株を買いたいなら、総資産の5%〜10%までを授業料と考えて使うこと。残りの9割以上は全市場インデックスETFに置いておきます。こうすれば好奇心も満たせますし、一度の判断ミスで家庭の財政が壊れることもありません。
付録2 私の回り道:米国長期国債のタイミング投資
2022年から2024年にかけて、私は多くの時間をかけて米国の長期国債を研究し、「Uncle Richのバブル投資時計」という仕組みまでまとめました。以下は当時の私のルールですが、2023〜2026年の実際の値動きで当てにならないことがはっきりしました。まねしないでください。
- ドルを買う:FRB(米連邦準備制度理事会)が利上げを始めると、ドルは上がり、債券は下がる。
- 債券を買う:FRBの最後の利上げから約2〜4か月後、10年国債の利回りが政策金利に近づいたとき。
- 株を買う:FRBが利下げを始めてから、株式市場にバブルの天井の特徴が現れるまで。
私は「過去の経験則」もたくさん集めていました。利上げの最終局面、FRBが利上げ停止を宣言する前に、10年国債の利回りは政策金利に近づくか、それを上回る。そのときこそが長期国債の下落の終点である。FRBが利上げを一時停止したあとは、国債利回りが最高値を更新することはない。「最後の利上げの日」に長期国債を買えば、1年で約10%、3年で約26%のリターンになる——といった具合です。
実際に起きたこと
| 時期 | 米10年国債利回り(月末) | フェデラルファンド金利 | 起きたこと |
|---|---|---|---|
| 2020年7月 | 0.55% | 0.1% | 長期債の価格が最も高かった時期の付近 |
| 2022年3月 | 2.32% | 0.33% | FRBが利上げを開始 |
| 2023年7月 | 3.97% | 5.33% | 最後の利上げ |
| 2023年9月 | 4.59% | 5.33% | 多くの人(私も含めて)が利上げは打ち止めだと考え、長期国債を買い始める |
| 2023年10月 | 4.88% | 5.33% | 利回りが約5%まで急上昇し、「天井を打った」ように見えた |
| 2024年9月 | 3.81% | 4.83% | FRBが利下げを開始。利下げ前に長期債はすでに上がっており、利下げ後はむしろ下落 |
| 2026年9月 | 5.29% | 3.88% | FRBはすでに何度も利下げしたのに、長期金利は2023年の高値よりさらに高い |
(データ:米連邦準備制度の経済データベースFRED、DGS10・DFF、2026-10-12にダウンロード。)
私がまとめた「過去の経験則」は、今回どれも成り立ちませんでした。利下げをしても長期債が上がるとはかぎりませんし、FRBが利上げをやめたあとも、長期金利は最高値を更新しました。理由はたくさんあります——インフレ、政府の財政赤字、国債の供給、将来に対する市場の見方。長期債の価格はあまりに多くの要因に左右されるので、ふつうの家庭に当てられるものではまったくないのです。
私自身もこの時期に米国の長期国債を買いましたが、タイミングが早すぎました。その後、価格と利息を合わせてほぼトントンになったところで売り、小さな損で済ませました。もしあのとき売らずに2026年まで持ち続けていたら、大きな損失になっていたでしょう。これは私の判断が正確だったからではありません。自分の読みが外れたことに早めに気づけたことと、少しの運のおかげです。
私は以前から自分の個人的なノートに、こんな結論を書いていました。「長期債(20年以上)は複雑すぎるので、手を出してはいけない。」今では、その確信がいっそう強まっています。
残しておきたい考え方
- 債券の価格と金利は逆に動く:金利が上がると、債券の価格は下がります。満期までの期間が長いほど、下落は大きくなります。
- 短期債は現金に近い:価格の変動が小さいので、近いうちに使うお金を置いておくのに向いています。
- 債券ETFには満期がない:損益は売るときの価格で決まります。債券を直接買って満期まで持てば元本が戻ってくるのとは違います。
- 外国債券には為替リスクがある:米ドル建て債券の利息がどれほど高くても、台湾ドルが値上がりすれば損をすることがあります。
- 国債と社債は違う:金融危機のとき、国債はよく値上がりしますが、社債は大きく値下がりすることがあります。投資不適格債(ハイイールド債)には債務不履行のリスクがあります。
結論:私の家族の資産運用において、債券の役割は「安定装置」と「現金の待機場所」だけです。短期で高品質の債券を使い、金利を当てたり値上がり益を狙ったりはしません。(第5章第7節「お金をどこに置くか」を参照)
付録3 詐欺対策の心得と用語ミニ辞典
詐欺対策:こんな言葉が出てきたら要注意
詐欺師の話術は次々と変わりますが、手の内はいつも同じ数枚のカードにすぎません。次のどれか一つでも耳にしたら、まず立ち止まってください。
- 「必ず儲かる」「損はしない」「ハイリターン・ローリスク」:私は長年投資をしてきましたが、本当に保証されたものなど見たことがありません。保証すると言い切る人がいたら、その人こそが詐欺師です。
- 「LINEで友だち追加して、グループに入って先生と同じように売買しましょう」:本当に稼げる人は、毎日グループであなたの面倒を見ているほど暇ではありません。
- ネット広告で有名人がお墨付きを与えている:その顔はたいてい無断で使われたものです。有名人が広告であなたをグループに誘うことはありません。
- 「まずこのアプリをダウンロードして」「お金はこの個人口座に振り込んで」:まともな投資なら、お金が入るのは正規の証券会社か銀行の口座だけです。
- 「募集枠には限りがあります。今日決めないとなくなります」:良い投資は、あなたがゆっくり考えても逃げていきません。急かされるほど、疑ってかかりましょう。
少しでもおかしいと感じたら、詐欺相談ダイヤル「165」に電話して聞いてみましょう(台湾の制度の例です)。刑事警察局のウェブサイト「165詐欺対策ダッシュボード」でも、最新の詐欺の手口や事例を調べられます。
用語ミニ辞典
| 用語 | やさしい説明 |
|---|---|
| 複利 | 儲かったお金を引き出さずに残し、さらにお金を稼いでもらうこと。時間が長いほど、雪だるまは大きくなる |
| 年率リターン | 何年投資したかにかかわらず、「平均して1年に何%増えたか」に換算したもの。比べやすくなる |
| トータルリターン | 株価の上げ下げだけを見ても足りない。受け取った配当も含め(しかもそれを再投資して)計算したものが、本当に得た利益 |
| インデックスETF | 株式の詰め合わせでつくられたファンド。ある指数どおりに買い、ファンドマネジャーの銘柄選びに頼らない。株式市場で株と同じように売買でき、コストが低い |
| 全市場(時価総額加重型)指数 | 一つの市場の主な上場企業をすべて組み入れた指数。大きな会社ほど比重が大きい |
| 積立投資(毎月一定額) | 決まった時期に、決まった金額を、相場を見ずに買い続けること |
| 安全域 | 自分が見積もった価値と、実際に払う価格との差。差が大きいほど、見積もりを誤っても傷を負いにくい |
| 平均回帰 | 上がりすぎたものはいずれ下がり、下がりすぎたものはいずれ戻る。長い目で見ると平均線の周りを動く |
| 経費率 | ファンドが毎年あなたのお金から差し引く運用・管理のコスト。%で表す。小さく見えても、複利で積み重なると大きな差になる |
| プレミアム | ETFの市場での取引価格が、中身の株式の実際の価値(基準価額)より高い状態 |
| 信用買い(融資) | 証券会社からお金を借りて株を買うこと。つまりレバレッジをかけること |
| バフェット指標 | 株式市場全体の時価総額を国内総生産(GDP)で割ったもの。経済全体に比べて株式市場が大きいか小さいかを見る |
| 10年平均比 | 現在の指数を過去10年(120か月)の指数の平均で割ったもの。価格が長期平均からどれだけ離れているかを見る |
| リバランス | 株式と債券(または預金)の比率がずれたとき、もともと決めた比率に戻すこと |
| 緊急予備資金 | 生活費の6か月分をあらかじめ用意し、いつでも引き出せる預金にしておくお金。失業や急な出費のときにも株を売らずにすむ |
出典(参照日:2026-10-13)
- バフェットによるバークシャー・ハサウェイの株主への手紙、1991年度(berkshirehathaway.com):「経済的フランチャイズ」の三つの条件——必要とされていること、顧客が近い代替品はないと考えていること、価格規制を受けていないこと。そのため頻繁に値上げができ、高い資本利益率を上げられる。
- メアリー・バフェット、デビッド・クラーク Buffettology(1997):「消費者独占型企業」という考え方。
- 「How Omaha Beats Wall Street」『フォーブス』(Forbes)1969-11-01:バフェットは自分について「私は15%がフィル・フィッシャーで……85%がベンジャミン・グレアムだ」と語った。
- フィリップ・フィッシャー《非常潛力股》(『株式投資で普通でない利益を得る』、Common Stocks and Uncommon Profits、Harper & Brothers、1958)。
- ピーター・リンチ、ジョン・ロスチャイルド《彼得林區選股戰略》(『ピーター・リンチの株で勝つ』、財信)。原著 One Up on Wall Street(Simon & Schuster、1989):テンバガー、急成長株のチェックリスト、PERと利益成長率の比較。
- ソフトバンクグループ(SoftBank Group)「新30年ビジョン」(2010年発表)。
- Bessembinder (2021), "Wealth Creation in the U.S. Public Stock Markets 1926 to 2019," Journal of Investing(2021年4月号。SSRNワーキングペーパー、2020年)。
- 「Mr. Buffett on the Stock Market」『フォーチュン』(Fortune)1999-11-22(バフェットの講演、キャロル・ルーミスによる構成、fortune.com):米国にはこれまでに少なくとも2,000の自動車ブランドが現れたが、1990年代には米国の自動車メーカーは3社しか残っていなかった。
- Jeremy J. Siegel, The Future for Investors(Crown Business、2005):「成長率の罠」。
- 米連邦準備制度の経済データベースFRED(fred.stlouisfed.org):10年国債利回り DGS10、フェデラルファンド実効金利 DFF、2026-10-12にダウンロード。
- 米連邦準備制度(FRB)のFOMC声明(federalreserve.gov):2022-03-16に利上げ開始、2023-07-26に最後の利上げ、2024-09-18に利下げ開始。
- 台湾の内政部警政署刑事警察局:詐欺相談ダイヤル「165」、ウェブサイト「165詐欺対策ダッシュボード」。
- 「Warren Buffett on the Stock Market」『フォーチュン』2001-12-10(バフェット、キャロル・ルーミス):株式時価総額とGNPの比率(用語ミニ辞典「バフェット指標」)。